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投稿日:2017/6/29

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Tokorozawa Photo
Photo: Satsuki Kudo
Coordinate: Yoko Moriya
 
20歳×過去と未来をつなぐ想起
 
先は未知。
しかし前へと道は続く。
その路を自分の足で踏みしめて歩き、背中を見せる。
その背中を見ていると、いつかの私の記憶を呼び起こさせるようで。
その記憶を辿ると、見えてくる今の私の根幹。
あぁ、そうか。私という人間は、あのときこんな風に人生という旅を見ていたのか。
晴れやかで、凛としたあなたの姿は、忘れていた記憶を、心もとない気持ちを、それでも明るく前に進むあのときの私を、思い起こさせるもの。
 
 
赤いドアを開けて、家族と一緒にこのスタジオの中へ入ってきたあなた。見るからに晴れやかな振袖。紺地に、古典だけどモダンな柄を着ているあたり、今どきのセンスを感じる。
凛として、堂々と、少しの違和感も感じずにそこにいる。その『自然』な佇まいを見ていると、思い起こされるのは私の20歳の頃。少なくとも私が20歳の頃は、写真を撮られるということ自体に緊張をしてしまって、今見ると恥ずかしい思いを想起されるものしか写真が残っていないような気がする。
 
見事に中学生から25歳くらいまでの写真が残っていない。いや、そもそも撮っていないのか。写真に撮られることに興味がないのではなく、写真として見る自分の姿が嫌いだった。もちろん、思春期特有のコンプレックスだったのだと今では思う。写真に写った自分の姿は、うねりが強いくせ毛に腫れぼったい一重の小さい目、そして丸い顔。どうしようもない物理的な造形にコンプレックスを抱いていた十代の頃は、プリクラだろうと自分の姿を残すのが嫌だった。
20歳になって髪を染めた。明るめの茶髪に、少しメイクも覚えた。それでも自分に何が合うのかわからないまま、成人式の写真を撮りに行った。自分に何が合うのかわからないので、着物は着付け師さんに選んでもらった。ピンク時に黄色い花柄。染めたての茶髪には、白い花の飾り。鏡で自分の姿を見た私はその似合わなさに絶望し、写真に残ったときの引きつった表情に、その日二度目の絶望を覚えた。後日、写真が届いたが一度も見ることもなく実家の倉庫に封印している。
そんな苦く切なく恥ずかしい十代から20歳までの記憶が蘇るからか、本当に若いころの写真が少ない。もし今、その写真が残っていたとしても見返す勇気が出るのは40代を過ぎてからになると思う。そのくらい、思い出したくないほどのコンプレックスの塊だったのだなと30代の自分が自覚する。
 
そのくらい、写真は過去の記憶を思い起こさせるものであると、落ち着いて考えられるようになったのはライフスタジオに来てからかもしれない。
 
「写真をツールとして人と繋がる」この仕事で出会う人たちは、何のために写真を撮るのだろうと考えれば、流れゆく記憶をまるで宝箱に宝石を入れるように留めておきたいからである。多くは子どもの撮影のため、その欲求を持っているのは、大人の方だ。過ぎゆく時間と日々は、本当にとめどなくて、いつの間にか10年経っていることなんてざらである。その時のとめどなさを知っている大人たちは、我が子の過ぎて流れゆく「今」を写真という形に残しておきたい。それはただ、「今の姿」を残しておきたいというよりも、何年後、何十年後か、「今」がはるかに過ぎ去ったときに、「今」を思い起こさせるインデックスにしたいから。「今」が美しいということを、流れていく「過去」が温かく感じられることを、噛みしめるときが訪れるということを知っているから。
 
ただ時間を記録するのは、ビデオでもいいかもしれない。なんていったって、被写体が生き生きとした姿で動いて喋っているわけだし。でも写真を撮るということが意外と廃れないのは、写真独特の「味」になるのかもしれない。静止しているから、事実ではないからこそ、人の記憶を呼び起こさせることを働かせ、人の主観によって思い起こさせる感覚や感情の質が違う。例えば、愛する人が亡くなったときにその人の写真を見ると、自分がその人とどんな時を過ごし、どんな想いがあり、どんな存在として認識していたかを写真は語る。動画だと、その精密な姿によって制限されてしまう人の認識能力を敏感に活動させ、事実ではなくその被写体の存在の真実を記憶に残すことができる。また、自分の過去の姿を写真で見ることで、その時の経験が連想され心境や価値観が呼び起こされ、自分の根拠を確認することができる。
写真とはただの静止画ではなく、人の認識に大きく作用するものが本質ではないか、と個人的には思う。
 
さて、難しい話はこのくらいにして、今回の撮影の話に戻る。
20歳の頃の私よりは、美しく輝かしく見える彼女。着物を選ぶセンスもよく、家族に愛され、彼女の存在の根拠ははっきりと見える。紛れもなく、今の彼女の姿は煌びやかで美しい。その「今」の美しさを、例えば彼女が30歳になったときにも伝えられたら、40歳の彼女にも、50歳になっても…なんて考えていた。横顔が美しく、抜き襟からのぞくうなじの細さは、日本人女性ならではの美しさで息をのむほどだった。
 
でも、なんかそれだけじゃない。なんか見えているものが、感じているものが、うまく表現できない。そんな感覚を覚える。彼女はそれだけじゃないんだけど、私の中の何かが邪魔をする。それは、見るからに美しい彼女の見かけに規定されていたからか、着物とはこういう撮り方で、彼女の美しさとは横顔で…なんて固定概念的な理屈に縛られているからか。
原点に戻ろう。私は何を撮りたいのか。それは、その人にしかないものじゃないのか。誰でもいい写真じゃなくて、その人と私じゃないと撮れない写真。それには、いったん成人式の堅さを崩す柔らかさを。動きを出すことを。ポイントを決めることを、しよう。
 
成人写真は、慣れないとぎこちなく撮影が進む。ぎこちない撮影は、被写体の動きを堅くさせる。だから、ある程度美しいものという基準がないと迷いが生じるし、迷いながら動かす箇所が多ければ多いほど違和感のあるポージングになりがちだ。だから、被写体の特徴を見て、的確に迷いなくポージングの指示をし、ぴたっと決まる完成形を掴まなくてはならない。見る箇所も気にする個所も多い。だから難しさを感じるという声も理解できる。
 
しかし、こどもでも大人でも、基本は同じだと私は考える。目的の中で、ポイントを踏んで表現をすること。これが必要だ。
まずは撮影をしている時の目的は「被写体を美しく撮ること」と「その人らしさ・自然な姿を撮ること」だと考える。そのためには、空間づくりや声掛けが非常に重要だ。成人ではなくbaby撮影だと自然にそれを行っているだろう。Babyに威圧感を与えないように目線を低くし、声もワントーン高めの声で話しかける。彼女は成人なので、できるだけ撮影者との敷居を低くすることが重要で、話す話も私の等身大のスタンスで、でも最近の大学生事情を聞きながら撮影を進めていく。言葉を交わせばかわすほど、その場にいた家族ともなじみ、私の声も彼女に届きやすくなってくる。こういったときに、ポイントを踏みやすくなっていく。
ポイントは、「動きのバランスを崩すこと」。きっちり美しい形を撮影している中に、そんなことを気にしないカットを作りはさむこと。このときは、私は彼女を椅子に座らせて、少し力を抜いてもらった。やや左側に傾く身体に合わせるように左手で髪を触ってもらう。着物の撮影だけど、力を抜く瞬間。そのバランスを崩した瞬間に、「その人らしい」動きが出る。この瞬間のポイントは体の傾きと指先。その意味は、ポーズをせず着飾らない等身大の彼女。それが彼女の自然な瞬間だと思った。その自然な瞬間、光にも意味づけをしておく。溢れんばかりの逆光は彼女が大人になって抱く希望のように。下に入れた前ぼかしは、その強い光を強調するために。
 
私の苦い記憶のインデックスからか、kidsでも大人でも写真に残すからには「今の自分」を最大限愛せるように「その人ならではの美しさ」を表現するようにしている。それは、一般的に決まっている美しさよりも、外的にはまらないことを優先している。一見、普通に見えても、被写体によって様々な要素を変化させて撮影することが重要だし、普通を美しく撮るには、人の特殊性を認識することが重要だとも思う。
 
よく、人には「特殊性」と「普遍性」があり、「特殊性」があるから人それぞれの美しさがあるし、「普遍性」があるからその美しさを共有したり共感できると言う。
私が、彼女をこのように撮ると決めたのは「特殊性」を認識しているからだし、その「美しさ」を共感できるのは「普遍性」があるから。
そして、彼女を見て自分の20歳の頃を想起するのは、経験的な「普遍性」があり、自分の苦い記憶が蘇るのは「特殊性」からか…。
 
いずれにせよ、写真の本質というものはそういった想起をさせる。その想起が美しいものであるように、その画角の中に存在するものに意味を付け、美しく写真を残し、形のあるものの様々な掛け合わせから、その時にしか現れない言いも言われえぬその当人にしかわからない感情や感性を生むことが、できたらいいなと思って毎日シャッターを切っている。

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