Photogenic


所沢店
scrollable

『Oblivion』

投稿日:2017/4/10

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Photo by HIRO
Coordinated by Kaori Kinoshita



子供の頃、何でもない休日の昼下がりに何かが始まる気がして心躍った。
特別なことなんてなくても、毎日が特別で一瞬一瞬が輝いて見えた。
何もないのにワクワクして、なんでもないことに我を忘れて無我夢中だった。


大人になったらいつの間にか忘れてしまう子供の頃のワクワクする気持ち。
無邪気にただその瞬間を生きながら、純粋に未来を信じる姿。
本当は大人になったから消えるわけではないでしょう。
きっといろんなもので蓋をして自分で鍵をかけてしまうのかもしれません。


フォトスタジオで撮影をしていると、毎日子供の姿を通してたくさん自分が忘れかけていた気持ちを思い出させてもらうことがあります。
もしかしたら大人になった時、幼かった頃の写真を見返した時に思い出だけではない何かを思い出すことができるかもしれません。
子供の頃の無邪気な姿を残せることは、未来への大切な宝物になるのでしょう。

 

写真は物理的には平面ではありますが、そこには時間、空間、空気、気持ち、思い出、関係性・・・
いろんなものを詰め込むとができるすごく4次元とも5次元とも言えるような箱になります。
写真という宝箱に子供の頃の純粋に人生を楽しみ、純粋に未来を信じて夢を見ていた姿を詰め込んで残してあげたい。
いつかもし、大人になり子供の頃のワクワクを忘れてしまうことがあった時、その写真を見て子供の頃の気持ちの鍵を開けてくれ たら。
今回の写真ではそんなことを思い、「休日に1人で遊ぶ子供の夢」をテーマに子供の頃の気持ちや夢を想起させる写真を形象化しようと決めました。

 

形象化とは目に見えない感情や想いなどを目に見える形で表現するとされています。
どんな想いをどんな形にするのか。
それはカメラマンに与えられた特権であると共にとても大きな責任でしょう。

所沢店の特徴的なインテリアに家のリビングのような部屋があります。
そのインテリアの特長として普段のような飾らない自然な雰囲気の撮影ができるという特長があります。
この特長を使って子供の頃の気持ちを想起させてくれるような写真を形象化したいと考えていました。
 

 

今回の被写体の子は白く透き通った白い肌とキレイなブロンドの髪が印象的なアメリカと日本のハーフの女の子。
まだいたずらも好きな天真爛漫な可愛らしい性格の5歳でした。
コーディネーターが提案してくれた白いワンピースと麦わら帽子の衣装を見た時に、彼女の持つ雰囲気と衣装のイメージが合わさり、考えていたリビングでのイメージの形象化を行うことを決定しました。
彼女が持つ印象的なブロンドヘアの色と透き通った白い肌の色、そしてシンプルな白いワンピース。
物理的な面においてもその色たちがリビングのインテリアのナチュラルな色味と、窓に写り込む外の景色の色合いとキレイにマッチし、彼女の持つ特徴を活かせると考えました。
また、撮影中に彼女の内側にある天真爛漫な内面が見え、今彼女がもっている子供らしい無邪気さや純粋さを未来に残して届けたいと思い、最後のシーンでこの形象化に取り組みました。

 

まず頭の中にイメージを膨らませて、紙に形象化のイメージをまとめ(※添付資料)、それをコーディネーターに見せながら相談し、お互いにイメージを共有して準備は完了。
実際にインテリアを整え、コーディネーターに子どもを誘導してもらい撮影を開始しました。

 

リビングで自然に遊ぶ姿を撮影しようと思いましたが、ただ遊んでいるところを残すだけではそこに残したい想いを詰め込むことはできないでしょう。
一枚の写真としてそこに想いを込め、形象化するにはそこに表現が必要となります。
この写真の表現のポイントとしては
「自分と被写体の間に窓ガラスを入れた撮影」
となっています。
窓ガラスがあることによって3つの表現効果がもたらされています。

 

1つ目が「被写体との関係性の断絶」です。
写真では必ず被写体を取り囲む人たちとの関係が影響してきます。
カメラマン、コーディネーター、パパママ。
直接は写っていなくても子供の目線だったり表情でその写真に周りの人たちとの関係が写り込みます。
それが重要な要素になることもありますが、今回のテーマは「休日に1人で遊ぶ子供の夢」だったので自然に遊ぶ姿を表現するために彼女をこの写真の中で1人にする必要がありました。
物理的に被写体と関係しないように窓ガラス越しに撮影をすることで、部屋の外から見守っているような表現がされ、被写体を1人にすることに繋がっています。


2つ目が「写真全体の統一感」です。
窓ガラス越しに撮影をすることで、窓に反射する光によって全体的なコントラストが下がり、色味が柔らかくなっています。
リビングの中のインテリアや小物、彼女の肌や髪の色など色味の要素が多くなっていますが、全体的なコントラストを下げることで統一感がもたらされています。
また、写真全体の色味をパステル調にすることによって、彼女の透き通ったイメージの表現を助けてくれています。


3つ目が「窓に外の景色を写り込ませる」ことです。
まず、この景色の写り込みを入れることにより写真全体に明るいイメージをもたらしてくれています。
リビングのインテリアをこの角度から撮ると奥のソファーの方が光が当たりづらく少し暗くなります。
そこで、景色にある空の部分のハイライトや植物の黄緑色を奥の暗くなる部分に写りこませることによって写真全体の印象が明るくなっています。
また、視覚効果的にも一見リビングと窓ガラスに写った外の景色が同化されたように見え、どこか綺麗なアニメーション映画のような世界観となり、リビングが持つリアル感を薄めて表現したい「夢」のようなイメージの表現にも繋がっています。


窓越しに撮影することの他にも一工夫入れているポイントがあります。
それはリビングの奥のソファーにあるカラフルなクッションです。
被写体を誘導し撮影に入る前に撮影する角度を考えて配置をしました。
カラフルなクッションを入れることにより、写真に色味を加えると共に、奥に目が行くポイントを置くことで、写真に奥行きをもたせています。


そして被写体のポージングは、その子らしい自然な姿が出るように彼女が遊べる小物をコーディネーターに選んでもらい、それを彼女に渡して自由に遊んでもらいました。
あとは部屋の外に出て彼女が夢中になる瞬間を待ち、シャッターを切りました。

 


実際に彼女が大人になってどんなことを思うのかは想像しかできませんが、ライフスタジオを通して彼女の人生に携わらせてもらったからには彼女の人生に何か少しでも力になるものを残せしてあげたいものです。
不安や失望の試練がこれからの人生待ち受けていたら、こんなにも一瞬一瞬は輝いていて、希望に溢れてたんだということを忘れないようにと願いを込めて。

子供の頃の気持ち。
忘れ去っていたその気持ち。
今、自分も持つことができているでしょうか?
大人になるといつの間にか特別なことでもないとワクワクする気持ちを忘れてしまいます。
そんなワクワクする気持ちは写真にも繋がるでしょう。

彼女の未来に何か残せればと考え形象化を行いましたが、けっきょく気づかされるのは自分の方です。
いつまでも子供の頃の一瞬一瞬に目を輝かせた気持ち、それを忘れずにファインダーを覗き続けることを教えてくれた大切な写真となりました。

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