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無の時間

投稿日:2018/7/28

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photo by takumi

 

写真は作り上げるもの

その途中で被写体とともに同じものを作ろうという関係性が生まれる。

その関係性が深いほど元の完成図よりもさらに写真に深みが生まれてくる。

それが撮影の最大の魅力であると感じ、行なっております。

 

ですが、この写真を撮る上で伝えたのは「壁に背中つけて本棚見てて」と淡白なものでした。

そこになにも感じずにいて欲しかったからです。

無の瞬間、僕は24時間中1時間ほど無の時間が生活の中にあります。

朝起きて支度し終わって行きのバスまで時間がある5分間、

出勤して営業準備が終わり椅子に座った数十秒、

営業を終え家に帰る電車内での30分、

家に帰りご飯を食べ終わった後の数十分、

 

無意味のようでとても大切な時間のように思えます。

フル回転中の頭を0にする。

エンジンをかけっぱなしでいることはできません。

せめてパーキングエリアに着いた時くらいはエンジンを切らなくてはいけない、そう思います。

 

人の感情を読み取り切り取るのがカメラマンの仕事だとするならば、この写真はカメラマンとして失敗かもしれません。

しかし、生きている全ての時間に美しさがあるならば無の時間もしかり、美しいものです。

 

無の時間は必然的に現れるものではありません。

どっと疲れた後不意に椅子に座った時に起きるかもしれません。

考え事をしていたらいつのまにか無になるのかもしれません。

はたまた起きない可能性もあります。

 

無の時間は誘発して起こせるものではなく、

いつのまにか、

自然に、

何気なく、

と言う言葉が似合うような、

そんなふと現れる時間です。

 

そんな瞬間が現れるのをずっと待っていました。

ただ座らせて本を渡したり、

「寝るふりして見て」と言った寝る前の瞬間を狙ったり、

被写体を変え、日を変え、探っていました。

 

一つヒントを見つけたのは自分を客観視した時でした。

椅子に座った時、

ベットに横たわった時に多い傾向にあること、

何か小さな考え事をしていた時にふと現れることなど、

本当に小さなヒントでしたが、手繰り寄せました。

 

「背中を壁につけて」

 

体の力を一点だけ逃がしてあげる、リラックスできる状態を作り、

「あの本棚見てて」

と何気なくて、本人にはどうでもいいけれど、

「どう言う意味だろ?」

一瞬考えてしまいそうな言葉を選びました。

 

10秒後、それは現れました。

 

彼女の全身から力が抜け、

しっかりと立っているのだけど、ツン通したら崩れてしまいそうな状態。

 

待っていました。

 

待っている間ずっとフレーミングを整えていたお陰ですぐにシャッターが切れました。

 

窓を通して、被写体との関係を壁で切り、

反射を利用して光の模様をアクセントに入れ、

冷たく硬いような無のイメージを持たせました。

 

露出は適正よりやや高めにしました。

無の瞬間にネガティブなイメージを持ってもらいたくなく出来るだけ神秘的なイメージを持たせたかったからです。

顔は適正露出になっていて、

プラスでもマイナスでもない、無の感情を表現しました。

全ての設定が整い彼女のその表情を待つことがでしました。

 

シャッターが切られた後、彼女は元の状態に戻りました。

本当に一瞬の隙、感情と感情の間に生まれた少しの時間、

 

無の時間

人間にとってとても大切で、切り離せない時間。

静かに冷たく触れるだけで解けそうな美しい時間。

 

全ての彼女に敬意を表して。

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人生の写真館ライフスタジオという名前に込めた想い。
それは、出会う全ての人が生きている証を確認できる場所になること。
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