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この1枚の写真-1 [父親との記憶・・・]
投稿日:2010/1/31
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8歳の頃だろうか・・・・
家で父親は地域を全て知り尽くしている、その地域に立っている大きな木の様な存在だった。
いつもそこに経っているけれども、言葉はなく、ゆれうごかない松の木のような・・・・
父親との会話はいつも短く終わっていた。
“食事はしたのか?”
“はい。”
“父さん、近くの公園に遊びに行ってもいいですか?”
“だめだ。”
当時韓国ではプロレス人気が高まり、友達ともよくプロレスごっこをしたりしていた。
アントニオ猪木が韓国で競技をして日本という国をはじめて知ることになった。
そんな父親とそのプロレスごっこをすることになった。プロレスごっこというものは特に決まりもなく2人で取っ組み合いになって押したり引いたり、殴ったりするものだが・・・
いつもそこに立って私たちを見ながら特に何も言わなかったその松の木のような父親と
過激なプロレスごっこをすることになるとは・・・
必死で遊んでいる最中に、私の人生で最大の失敗を犯してしまった。何故そうしたのかわからないが、私の足が速い速度で父親の頭を攻撃しながら、“パン”という音と共に1分程度の沈黙が部屋の中を暗くした。
父親も何も言わず、私も何も言わずにその瞬間を、20数年が過ぎた今も、鮮明に記憶している。
その後は父親と一緒に遊んだり、特別な愛情を感じるような特別な記憶がない。
今から8年前
父親、母親、そして私の3人で温泉にいったことがあった。
宿に荷物を置き、そこが海の見える場所だったので新鮮な魚や海鮮を買いに行くために海を歩き・・・
70歳を前にした両親との旅行が特別面白いということもなく、若干の義務意識をもったものであるために時計を何度もみていた。
食事をしてホテルにある温泉に、父親と共に行った。
温泉に入り、しわしわになった父親の体をみながら、もう父親もじいさんになったんだなあ・・・と考えたりもした。
韓国では“あかすり”というものがある。
体についている油分とよごれが、少し粗いタオルでこすることによってどんどんでてくる・・・
一度も経験したことのない人はわからないかもしれないが、どっちにしても人間の体には必ず存在している。
垢というものが・・・
普段は体をどれほど清潔にしているかによって、そばのような麺の形をした垢の量と色が変化して見える。
当時の私は、相当量の垢を自分の体につけたまま、暮らしていた。
自分であかすりができない背中は、お互いに交代しながらあかすりをしていくのが、韓国の銭湯で見られる光景だ。
私がまず父親の背中をこすった。体から出てくる特別な物質を発見することはできず、ただ背中をみながら、形式的にあかすりをしながら思い出した、その記憶・・・・
その広い背中にのってプロレスをしながら、体が下にさがっていきながら私の足が父親の後頭部を攻撃してしまったときの沈黙・・・・
そのときの父親の背中は、一つの運動場のようであり、野山のようであった。でも、今は弾力を失ったその背中が、小さな老人の、平凡な背中であった・・・・
次は父親が私の背中の垢をこする番になった。
その当時私の背中は、8年間人間の手が届かないほど、未知の世界だった。軍隊で集団生活をした23歳以降、一度も文明と出会うことのなかった、かわいそうな私の背中・・・・
上から下まで、1回目の作業が終わって、一言。
“でるな”
約10分程度が過ぎ、もういいですと伝えても父親はずっと手を止めずに垢をこすっている。そして“こすってもこすっても出てくるから、やめられないな”
私が父親に今までしてきたことが何かあっただろうかと、考えてみた。
そして今日になってやっと、一つだけはあるということに、気分がよくなった。
[ 息子の背中を文明の世界に導いたという満足感・・・・ ]
そしてその日以降、私の背中はもう一度文明の世界に出会うことがなく、少しずつ、アマゾンになっていった。
もう一度父親に喜びを感じてもらいに、韓国に帰らなければ・・・
力がなくなってきている父親を発見することにはなるが、一つだけ希望を持ってみる。
父親がそのときにプロレスごっこをしながら受けた恥辱を、今回背中をこすりながら復習してくれることに期待する。私の頭を足で蹴飛ばしながら、こんなことを言われたら、私はもっと嬉しい気がする。
“お前は人間か、獣か”
そうしたら私は“人間になりたいと思っている、獣です”と、答えなければ・・・・
日本で経営ビザをうけ、韓国での生活を整理しながら記念に家で撮影したこの写真をみると、2つの単語が思い浮かぶ。
プロレスと垢すり
私たちライフスタジオは、お客様に何を思い浮かばせることができるのか?
プロレスと垢すりという単語を思い浮かべながら、何故涙が出たりするのだろうか?
写真とはそういうものだ。
なくなることのない、忘れかけていたその何かにたいする、礼儀・・・
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