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下関店
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book*いま、地方で生きるということ

投稿日:2012/11/14

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東京は、違う国だよね。

 

そう言ったのは、わたしが育った町の人だった。

 

そうかも知れませんね、わたしは答えた。

 

何もかもが、違う。

多分それは、量でもあるし、システムでもあるし、文化でもある。

 

進んでる、って思った。

なんでもある、って思った。

東京は、別格だ。

人ごみの中で、狭い空を見上げる。

 

何もかもが違う。それが、東京だった。

それがいいのかも悪いのかもだんだん分からなくなって、

それでもここが日本の中心ではあるのだと感じてしまった。

 

 

 

田舎だから。

そう何度言って諦めたことがあったか分からない。

電車がない。バスも来ない。人もいない。

無駄に広い土地には、無駄に大きなパチンコ屋ばかりが出来る。

とくに行くところもない。店もない。

 

おもしろくない。

 

やりたい仕事がない。

 

ここにいるつもりもない。

 

憂鬱だった。

 

同じ日本であっても。

きっと、ここだけが生きる場所じゃないはずだって。

そこでしか生きたことがないからこその、好奇心でもあった。

 

自分がしたい仕事がしたい、それはきっと田舎ではできない分野だと思っていた。

一度だけなら、一度だけ、出て行ってしまいたい、そう望んだ。

そう思って田舎から飛び出してきたひとりになった。

(でも、東京に住む自信はなくて神奈川にやって来た。)

 

どこに行っても感じたのは、やっぱり東京(の一部)は違う国だ、ってことだった。

ハイセンス、ハイコスト、ハイレベル、

なにもかもがトップレベルで維持されていて、それはそれは停滞を拒むような発展の結果なのかとも思う。

人の欲求をいつも満たせるように、デザインも仕組みも空間さえも、常に向上し作り込まれてゆく。そんな感じがした。

そうかと思えばめちゃくちゃな価格競争もあって、あらゆるものが大量にディスカウントされている。

地元では見たことのないような価格が張り出される。

 

それだけの人、それだけの欲求、それだけのお金があるからこそ。

きっとここだから可能なのだと思った。

 

小さなころから、ここに居る人達はどんな気分なのかと、これが当たり前なのかと、羨ましくもなった。

目にあまるほどの物、行く所だらけに思える場所。

エンターテイメント、美術館、映画も演劇も。世界中の雑貨、飲食店。

いつだってくる電車、地下鉄だってあるしモノレールだってある。

なんだっていつも、ばあちゃんが見たらたまげるな、っていうことばかり。

なんでこんなに違うのか、訳が分からなくなるほどに。

 

ただ、6年が過ぎ、ふと感じたことは、そこまでわたしがここに求めるものがそれほどにないということだった。

ここでしかできないと思っていた広告の仕事は、だいたいのことが分かった。

みんな、本当に全身全霊で仕事をしている。表もあれば裏もある。

油断も隙もない、プロの現場だった。

たしかに、ここでしかできない中央指令塔のよう現場や素晴らしい仕事の職人たち。

圧倒されながら、わたしはここで写真を撮ることはできない、と挫折した。凄すぎた。

改めて、もっと穏やかな人と人との中で写真を撮ることを選んだ。

生活においても。

綺麗な床の、綺麗な壁のピカピカのエスカレーターに乗っていい匂いのする店に入ってショッピングするよりも、

いつも手ぶらで海を見ていることの方が結局多かった。

海は、俄然地元の方が美しい。

きっと、なにもない訳ではなかったんだと、今は思う。

 

もちろん、たまに都会の空気の中に入り込むと、とてつもない刺激を受ける。

高いものには、高いものなりの価値はあるし、

綺麗なものには、綺麗なものなりの価値がある。

こういう機会は必要だ、とも思う。

でも、いつも、でもない。

 

ここにいる理由。

それは、ない訳ではないけれど、ふと思ったことは、どう生きるかを考えた時に、

どこで生きるかということだった。

 

ほぼ親族が故郷で暮らしている。

あの街も、人が生きている場所。

わたしの故郷が東京のようになってほしいと思っている訳でもなく、

均質化というよりも、離れてこそ、ただもっと、人の営みを再考して大切にすることができるんじゃないかと思うようになったし、

実際最近、そういう動きが地元でも起こっていることが目に見えて感じるようになった。

田舎だから、そう割り切って、ずっと続いている空気感。停滞感からの、後退感。

若者が減った、といつもいつも言われている故郷。

それを少しでも掘り起こそうとしている人がいる。

諦めではなく、受け入れるということ。

そこから、次の世代にも受け継いでいくことのできる、大切な場所としてよりよく守っていくこと。

どうしていこうか。

地元を離れてこそ、そして今の写真館としての仕事をしてこそ、感じ、考えてきたこと。

それを、福岡のとある人と話す機会があって、無我夢中で話をして、話を伺ったことがあった。

わたしが頭で考えていたことを既に現実としてやっている人がいた。

その方がインタビューされていた本のタイトルはまさに、「いま、地方で生きるということ」だった。

 

いま、地方で生きている、様々な人の思いや動きがそこにはあった。

 

 

•地域活性化というけれど、それは地元の人たちが自分の街にいかに誇りを持つかということなんじゃないか。

 

•もう一度、一個一個小さな塊に戻して、いろんな人に手渡してゆく作業をしないといけないと思ってるんです。

一番小さな単位で「家族」とか、あと「町内」とか。

 

•日本列島民である我々が、いろいろな場所で、もう一度どれだけ深くそこに根ざして生きてゆけるようになるかということが、たぶん生存にもかかわるだろうし、創造的に生きてゆくことの実践になるのだろうと思いますね。

 

•これまでのような「東京」という出来合いのお話に乗らずに、東京であれどこであれ、自分たちの場所を自分たちでつくってゆくことが、本当に大事な時代が来ているんじゃないかな。

「これしかない」と思えることを、自分たちでとことんやるのがいい。

東京を気にせずに。

そういう空気感が次第に強くなってきているなと思っていてそれを形にして読んでみたいと思ったんです。

 

(一部抜粋)

 

•写真屋オーナーさんのお話

 

『カメラがデジタルになってから、みなさんデータで写真を残されるようになって。

それがたまりにたまって、写真をふりかえって見ることが少なくなってきた。

プリントもしなくなり、アルバムをつくるという行為自体も少なくなってきています。

写真屋はどんどん減っていて、そうすると街の記録も残らないし、子どもたちのアルバムも残らない。

みんなが大きくなって次の世代に自分たちのことを伝える時に、話をする場すらなくなっていくんじゃないかと思って。

写真というより、アルバムを開いて、それを囲んで一緒に語り合う場が大事だと思っているんです。

みんなにまずアルバムをつくってほしい。

それを街の中で広げてゆくには、お店にするのが一番わかりやすいんじゃないかなと。

「写真を撮ってアルバムにしたいね」って家族でお話をして来られるということが、既に幸せなのかなという気もする。

私たちはそれを形にして戻すわけです。

そういう小さな支えのようなものをお互い様で交換してゆくというか、受け入れ合うというか。

写真屋さんという機能は街の人たちの思いと一緒に営まれてゆくもの。

 

 

解決するという形ではなくて、それが見えなくなるぐらい大きな力で問題を包み込むような行為も、どちらも私の仕事だと思っています。』

 

(一部抜粋)

 

あの日、その場所で話したことと変わらない思いがそこにはあって、心打たれるものがあった。そして今、わたしが撮っている写真においても、同じ気持ちを持っている。

 

田舎の町では、写真屋だけではなく、今まで色んな小さな商店が閉まっていくのを目の当たりにしてきた。

営んできた人も、そこを頼りにしていた人も、一気にいなくなって、わざわざ遠出をしなければならなくなった現実があった。

便利になった人、逆に何もできなくなってしまった人。

会える人、会えなくなった人。

街は、変わった。生活も変わった。

でも、そうなってしまった今、改めて人と人が関われる、そういう場所が必要なんじゃないかと切に感じている。

 

消費税増税で懸念されている、これからの生活、明確でもない地方財源の現状。

避けることができない状況、あらゆることが関わっている世の中の動きの中で、

それでも地道に地道に、人が穏やかに暖かく生きてゆける方法を見つけながら暮らしてゆければと思う。

街の記録、そこで生きている人達の記録。

大切だと思える場所、大切だと思える人。

ずっと残していきたいと思えるもの。伝えたいこと。

写真でできること。

 

 

 

 

 

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それは、出会う全ての人が生きている証を確認できる場所になること。
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