Photogenic
青山店
あなたの為の。
投稿日:2021/1/20     更新日:2021/1/21
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Photo&Write by Reiri Kuroki
Coordi by Ta-na-
@AOYAMA
ライフスタジオのいち撮影者として、お客様に今何を求められているのか、ということを、最近よく考えています。
写真屋なので、もちろん『写真』を求められているのですが、私がここで撮らせてもらっている『ひとの写真』というのはすごく、すごーーくいろんなプロセスを経て形成されるモノでもあり、プロセス次第でその『写真』が持つ機能に違いが生まれるモノなんじゃないのかな、と思っています。
良い写真、というのは、きっとその機能がよく稼働する写真、と言えるのではないでしょうか。
『写真』は、客観的記録に振り切ることのできる写実性を持っていますが、ライフスタジオの写真に求められている機能は多分そこではないのでしょう。ライフスタジオの写真は、そこに写るそのひとへの肯定的な眼差しを通してその存在を再確認すると共に、新たな美しさの発見を伴う写真、でありたいと思っています。わかりやすく言えば、75カットの中で「ああ、いつもの笑顔だね」という写真と「こんな感じは初めて見た!」という写真があって欲しい。個人的には、いつもそこを心がけてシャッターを切っています(伝わり方はひとそれぞれでもあるので、毎回確実にそれができている訳ではないと思いますが……)。
そういう写真は、その機能が多岐に渡りよく稼働するのではないでしょうか。変わりゆく『ひと』の成長過程の記録として、という側面はもちろんのこと、撮影時の体験を通した楽しい記憶や感情のインデックスになったり、あるいは撮影するより以前の子どもの成長の過程さえ思い起こさせるものであったり、いつか遠い未来で自分という存在への自信に繋がる証であったり、何か心の動くものであったりする、そういう写真がきっと『良い写真』(……の、ひとつ)。
写真の写実性に任せただけの客観的記録はただの忘却対策でしかなく、1から10までを説明するような克明な記録は時に無粋でさえあると思います。1枚の写真から、連鎖的に繋がってゆく記憶や、感情や、想いを、見るひとに呼び起こさせるもの。その感覚や感情を、今、この瞬間を通り過ぎたその先の未来へも届けてくれるもの。写真とはそういう機能を持たせることができるものであり、それがただの記録になるか、それとも感情を伴う記憶になるかは、その写真が形成されるプロセスにかかっています。
七五三の撮影で、今回初めてライフスタジオに来てくれた、5歳になったばかりの男の子。
パパさんが昔着たという黒い袴を着付けられて、緊張の面持ちでカメラの前に立っていた彼は、とても真面目な男の子でした。こちらも過剰なおふざけはせずに、彼の緊張感を尊重しながら、その緊張感が袴姿の凛々しさに効果的に反映されるように、ゆっくりと撮影を進めていきました。
とは言え、ただ撮っていくだけでは『新たな美しさの発見』も『いつもの笑顔』も写真に残すことはできません。写真は、結局のところは撮影者である『わたし』の主観が反映されるものであり、私自身が彼というひとを見て、感じ考え、規定し、表現するものだから、私が『彼』を知らないままでは、私は彼の『いつも』も『新たな美しさ』も見付けようがありません。私は彼を知るべくコミュニケーションを取り続け、私の意図を汲んでくれたコーディネーターのターナーも同じペースで、でも少し違う角度から、彼のいろんな反応を引き出すべく関わり続けてくれました。
やがて口元から笑みが溢れるようになり、撮影を楽しみ始めてくれた彼のあどけない笑顔は、初めての撮影をそっと見守ってくださっていたパパさんママさんの笑顔にも繋がっていきます。3シーン目、着物とスーツからカジュアルな衣装に着替えた彼は、装いから『いつもの感じ』に近付いたことでだいぶリラックスしてくれていました。緊張感が消えた代わりにワクワクするような楽しさが撮影空間に在ることが、撮影者にとっては『良い写真』を残す条件が整った状態で、良いプロセスを経てきた感覚がありました。
この日初めて会った5歳の少年を、私はまだ一部分しか知らないけれども、その真面目さもあどけなさも見せてもらうことができました。カジュアルな服に着替えて、パパさんママさんの前で大きなシロクマを押しつぶして遊んでいるその笑顔が『いつもの笑顔』なのだとしたら、そこから『わたし』に意識を向けてもらうその瞬間が、彼の『初めて見る感じ』の一端を見せてもらえる瞬間になり得る、と思いました。真面目で礼儀正しい彼が、これまでの1時間という撮影の過程で撮影者である『わたし』をどう認識したかが顕われる瞬間。『わたし』の主観で、その瞬間を切り取る。
ベッドの上で寝っ転がって「寝ちゃおうか」と声をかけてくれたターナー。「朝ですよーって言ったら起きてね」と言って、フクロウの声真似をしながら彼の反応を待ちます。
ちょっとニヤニヤとしながら目をつぶってタイミングを待っていた彼が、少し焦れてこちらを窺う、その瞬間にぐいと寄ってフレーミングをしました。押し付けられてちょっと潰れたほっぺたは遠慮なく遊んでくれている証であり、こちらに向けられた視線は遊びの続きを待っています。
いっしょに遊べるひと、という、近しい距離感でのクローズアップ。それが、彼の撮影で『わたし』が表現する彼の写真になりました。
撮影後、写真を見たパパさんママさんからは、今までの記念日にも撮っておけば良かった、というお言葉をいただきました。
このご家族にとって初めてのライフスタジオとして、私たちが撮影した写真が良い機能を稼働する写真となり得たのであれば、それはとても嬉しいことです。
緊張した面持ちの着物姿も、無邪気なあどけなさも、私たちへ向ける彼の眼差しも、この日の撮影の記憶と紐づいて、楽しさを伴う感情を呼び起こせる写真としていつか遠い未来で見返されるものであれば良い。本当に、そうであれば良いと願っています。
私の写真は、そこに写る『あなた』と、『あなた』を大切に想うひとの為に撮っています。
これまでも、これからも、『あなたの為のあなたの写真』を撮っていたい。
お客様から求められる『ライフスタジオの写真』に対して、『わたし』という撮影者が提示するひとつのかたち、です。
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