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京都桂店
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この1枚の写真への長い道のり

投稿日:2021/10/28     更新日:2021/10/28

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始まりをどこと考えれば妥当だろう。

この撮影を始めた時と言えばそうだし、このインテリアを作成した時と言えばそうとも言える。もっとさかのぼるならば、名古屋にいる友人にアドバイスをもらった時かもしれないし、初めてピンタレストに画像を保存した時かもしれない。平凡と言えば平凡なこの写真だけれど、撮り終わってパソコンで拡大してみた時に現れた感情は「これを撮るためにやってきたのかもしれない」という喜びと使命感の混ざったような感じだったように思う。

ライフスタジオに10年という長い年月を過ごしていながら、インテリア(背景)について真剣に悩み、0から1を作り出す苦しみを味わったのはこの1、2年だけかもしれない。本当に恥ずかしい話だけど、私にとってのライフスタジオでの生活にインテリア背景の悩みというのは入ってこなかった。というより、逃げてきたようにも思う。チャンスは幾度となくあった。2013年、横浜青葉店をオープンするときがそうだ。それこそ名古屋にいる友人と出会って間もなく一緒に横浜青葉店をオープンすることにした。インテリアをどのようなものにしていくかという判断は私たちにゆだねられていたのだ。しかしそれにも関わらず私の頭の中には全くといっていいぐらいに何も入っていなかった。入社して1年半ぐらいの時だ。経歴を考えれば仕方ないと言えなくもないけど、それでもチャンスを棒に振ったことは確かだった。私がこれまでインテリアにそこまで注力をしてこなかった理由として大きいのは「被写体の良さを引き出すのはカメラマンの能力であり、背景が成す仕事ではない」と思っていたからである。背景がきれいに越したことはないけれど、背景がきれいだからといって被写体の美しさが表現されるわけではなく、結局はカメラマンの能力次第であるという手前勝手な理論である。妙に自信のあった数年前までの私は、極論「白背景だけでも十分に表現ができる」と鼻息荒く写真を撮っていたのを思い出す。恥ずかしい話だけど。

この1~2年でインテリア背景について本気で考えるようになったのは、自分の写真に対しての限界を感じていたからと言えばカッコいいかもしれないけれど、それは40%くらいの理由で、残りの60%は結局は顧客に対する思いが大きいと思っている。どんなに素敵なものも時間が経てば風化していくものというのは自然の摂理で、15年というライフスタジオの歴史の中で生まれたたくさんの最高な写真たちを横目に時代は変わり私たちのスタジオも変わっていかないといけない時期に入ったと言える。40%の理由の方を打開するには被写体の美しさに花を添える背景が必要という結論は何年も前から知ってはいたけれどサボっていたのはここだけの話にしたい。

さて、このようにしてここ数年でようやく背景について勉強を始めたわけですが、やってみてわかったのは「背景を考えるのは本当に難しい」ということだ。当たり前だって今これを読んでいる人は思ったかもしれないけれど、カメラマンならわかると思うけど写真を撮ってる人間ならなんとなくできるんじゃないかと思いがちなのが背景つくりの罠です。

写真を撮っていると「あーここもっとこうだったら撮りやすいのに」とか「なんでここにこれがあるんだろう?」みたいな不満が出るものです。でもこれは結局は人がやったものにケチをつけているだけで、言ってみればテレビで野球中継を見ながら「なんでそんなボール球振るんだよ!」って言ってるけど自分では打てませんっていうおじさんと同じなんです。実際自分で背景を作ろうとすると全然うまくいかないんです。

この写真の場所も、この写真が生まれるまでに何度も何度も作り直しました。

最初できた時は上のドライフラワーももっと大きくて手前にあり、見た瞬間「完璧だ」と思ったものですが、実際に撮ってみたら画角に入らないわ光がうまく入らないわで全く絵にならず、無理やり入れようとすると手前の柱が入ってしまったり・・・とにかくがっかりしました。

階段の位置をずらし、ドライフラワーを少し小降りにして位置を変え、少しずつまとまりを見せながら彼女の撮影を迎えます。

 

彼女との撮影は2回目、このインテリアの完成形を撮影するにはうってつけのモデルでした。モデルとしての姿勢やプロ意識さえも感じるたたずまいにとても中学生とは思えないのが彼女の特徴ですが、プライベートな悩みを話しているときは子供らしい一面も見えてホッとできる時間も交えながら撮影を進めていくことができます。

この写真の最も大きな特徴は「すべての構成要素のバランス」である。

 

最初に、彼女の綺麗な姿勢をどこに配置すべきかを考える。

彼女が椅子に座るほんの5分前までこの場所には強烈な西日によって地面のほとんどを長く伸びた影が支配していた。事前のイメージではその西日をこちらが支配して撮ろうと思っていた。その時のイメージでは梯子の横に立っていたのだが、撮影が始まるや否や西日は影を作るのではなく影をひそめてしまい、イメージしていた影を利用することができなくなってしまった。影の形が変わると写真のバランスが変わるため再構築を余儀なくされる。そこで思いついたのが少し手前に引いた椅子に座ってもらうという方法だ。

西日の時にこの位置にいた場合、着物が白飛びしてしまうのでできなかったが、日が落ちてしまったのを逆手に取り彼女がメインであることを強調できるように手前に出す。ここでバランスを保っている一番の要素は彼女の影だ。西日ではないので伸びているわけではないが、静かに落ちた彼女の影は、彼女の位置とはしごの位置にできた前後のギャップを埋める。あとは水平垂直が間違わないように切り取っていくことで全体的なバランスの均衡を保つことができ、なおかつこの場所の全容をしっかりと伝えることができる。1点物のアンティーク着物にモダン柄の帯の組み合わせがこのインテリアがどのような写真を提供する場所なのかを明確に教えてくれる。

 

久しぶりに長々と文章を書いた。

リーダーとしての武勇伝を話しているようにも聞こえるし、ただ自分にセンスが無いという自慢をしているだけにも聞こえる。

 

だがひとつだけ言えるのは、ようやくここのインテリアをもういじらなくてもいいかもしれないという事だ。

彼女には感謝でいっぱいだ。

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それは、出会う全ての人が生きている証を確認できる場所になること。
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