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京都桂店
[RESONANCE]
投稿日:2017/7/24
1409 9
Photo by volvo
codi by kudo
PHOTO IN Tokorozawa
「この写真すごくいいね」
モニター中。
この写真が流れた瞬間
パパさんはモニターを指差し
ママに向けてこう言ってくれました。
10回目のご来店。
1歳で初めて撮影に来てくれたお兄ちゃんはもう10歳に。
妹である彼女も7回目。
ご家族全員がライフスタジオをとても熟知していて、それと同時に
ライフスタジオで過ごす時間をとても楽しんでくださっているのがわかりました。
私は普段あまり撮影履歴は気にしないのですが、今日までに行ってきた9回の撮影で
様々なカメラマン達が写真を撮り、いろんな美しい記録と楽しい記憶が彼女達に蓄積されている事を
冷静に考えてみると、今日の撮影で自分が彼女達に何をする事ができるのかと考えては
撮影前に珍しく動揺する自分がいました。
ここ数年そんなことで動揺などした事がなかったのになぜこんな気持ちになったのかというと
この撮影に一緒に入ってくれた工藤さんの言葉があったからです。
ある日、唐突に「撮りたい写真が撮れていますか?」といった趣旨の質問を私にしてきました。
長年同じ仕事をしていれば変わっていくものではありますが、私の撮影スタイルや写真の傾向が少しずつ
変化している事に工藤さんはここ数ヶ月で気づいたようでした。
例えばサッカーで、若い頃にガンガン走って点を取っていたフォワードが年を取ってくるとバランスををとる役目や
ゲームを作る役割に変わっていく姿を目にしますが、それに少し似ている変化かもしれません。
質が変わったというよりは傾向が変わったという表現が正しいように思います。
店長という役柄なのか、自分が点を取る役割ではないという認識が私をそのように動かしたのでしょうが
工藤さんの言葉は「もっと自由に」と言われたようでした。
よくよく考えてみれば、動揺していたのは彼女達に何をする事ができるかわからないからではなく
自分の力を発揮する事ができるのかという自分自身に対する懐疑心によるものであったのかもしれません。
その瞬間、数年前ギラついていた頃に発した
「写真の距離は心の距離だ」という偉そうな言葉を今の自分に言い聞かせなければいけない。
そう思いました。
自分で作った言葉なのにこんな事を言うのもあれですが
彼女達を撮影しながらつくづく写真の距離は心の距離だと
感じる瞬間が何度もありました。
子供達は変わっていくもの。
毎年来てくれているとはいえ、子供の一年の変化はとても大きいものです。
7歳の彼女はこれまでの撮影は積極的だったという話を後から聞いて驚いたくらい照れ屋さんでした。
最初にドアを開いた瞬間に抱っこするにはちょっと大きいその体が背中を向けて
玄関を入ってきたことから誰でもわかるくらいに・・・。
多少打ち解けてきた事もあり、撮影中に笑顔を見せる事はいつの間にか当たり前のようになっていましたが
人には慣れても写真には慣れない。そんな雰囲気でなかなかカメラを見たり、こちらのお願いに応えるのは照れてしまいます。
恥ずかしい、でも本当はやりたい・・・。
一生懸命やろうとしてくれる彼女に対して、私たちは彼女のその一生懸命さに甘えてはいけないと思い
工藤さんと二人で指示よりも楽しく、ポーズよりも面白くが勝るような喋りかけと場の空気を作る事に集中しました。
なぜなら、彼女の一生懸命さに甘えてやってくれることをただ撮るだけならば
彼女にとって写真撮影というものが、写真が残っても楽しい思い出にならないかもしれません。
それに、その程度の距離感ならば私の写真が撮る事ができません。
その度に思い出します。
「もっと自由に・・・」
自由に写真を撮りたいならば、何を撮りたいのかがはっきりしている事と、それが撮れる条件を自ら作り上げる事が必要です。
彼女の日焼けした褐色の肌と新しく取り入れた肩の見えるドレス、工藤さんが編んでくれたラプンツェルの髪型
そして照れながら期待に応えようとする彼女のいろんな感情の混ざった笑顔。
今この瞬間にしかないこの組み合わせを表現したい・・・。
それがこの撮影における私に取っても「もっと自由に・・・」でした。
そのためにはまず光を選択する必要があります。
私の写真はオーバーにもアンダーにもなります。
明るい写真もあれば鼻筋に光るものしか見えない写真もあります。
ただひとつ共通してるのは「光」に集中している事です。
当たり前を美しく、当たり前を少しだけ特別に。
これが光を操る理由です。
この写真の光はいたってシンプルで、ただの逆光です。
しかし、そんな当たり前を少しだけ特別にするには適切で自然な露出差が必要です。
露出差を作るのは当たり前な事ですが、考えると奥が深いものです。
明と暗の差を3:7にするか2:8にするか・・・ちょっとの差で表現が変わります。
結局はどうしたいかです。
今回は4:6位を選択しました。
理由は強めな光が背中と頬をオーバー気味にする事で幻想感と被写体のラインを綺麗に見せる事。
次にどのように実際にそうするかですが、これには答えがありません。
なぜならその時々で状態は変わるからです。
今回で言えば背中が見えなくなるくらいの露出を設定する事と表情が白飛びしない事が必要でした。
背中を見えないくらい飛ばすのは簡単です。あとはその露出に表情の部分が耐えられる根拠が必要で
それは彼女の日焼けをした褐色の肌が私に根拠を与えてくれました。
次にトリミングですが、被写体である彼女が右に寄っている理由は二つ。
「光を背負う」意味と右端で少し輪郭を切るためです。
「光を背負う」というのは構図上「何もない」所に光を置いて「何かある」ように余白に意味付与をさせる事を意味します。
左半分はただの白ではなく、彼女の背中が前面に光を受け取って光に背中を押されているようなイメージです。
輪郭を切るというのは被写体のバランスを意味します。
彼女は細身でもあったし、衣装や光の関係上、体がすごく細く見えるため写真の上半分と下半分で重心に違和感が出ます。
しかし、右側の輪郭を少し切る事によって体の厚みとほぼ同じ幅になるため重心に安定感が出ます。
そしてこの写真の一番重要なポイントでもあり全体の統一感と核心を生んだのが前ボケと表情そのものです。
前ボケは主に遠近感とデザイン性、または被写体との距離感作りに利用しますが、この写真における前ボケは
そのどれでもなく、料理で言うと味を引き締める最後の調味料のような役割です。
具体的に言うと左の白い部分と被写体である彼女のつなぎ役です。
4:6で作られた明暗差にフィルターをかける事で明暗差を維持しつつも暗が目立ちすぎず
白い光と調和して見える事、右下の彼女の腕に対してもフィルターがかかってる事で違和感を最小限にしています。
表情についてはいつも心がけている事があって、それは「最後の一押し」というやつです。
例えばこの写真を作るにあたって彼女が笑っていなくても(笑わせなくても)似たような写真を撮る事はできます。
しかしそれは形式は同じ写真でも全くの別物「似て非なるもの」です。
「きた!」と思った瞬間からのもう一声。これが写真の質を大きく変えます。
「写真の距離」はこういうところから縮まっていきます。
モニター後、彼女が私とサッカーがしたくてボールを抱えてスタッフルームの前まできたものの、恥ずかしくて開けられずに
戻っていったという話を帰り際、工藤さんから聞いて、今日の撮影は大成功だったと確信を持つ事が出来ました。
結局、目の前を明るく照らしてくれるのはいつだって関係性です。
この写真に出会わせてくれた工藤さん、そして大村ファミリーに感謝です。
「写真を通して関係を作る」
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