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京都桂店
「写真は時として嘘をつく」
投稿日:2016/11/26
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photo&write by volvo
codi by takako
子供達の帽子を外したがる姿は私たちの職場では見慣れた光景だ。
着けたがらない子供と説得する撮影者、期待の眼差しで見つめる親御さんの構図は
写真を見返した時によみがえる思い出話としてリピーターさんにとっては一家に一台のテレビのようによくする話だろう。
だがこの写真はどうだろう。
この写真を見返した時「あーこの時帽子嫌がってたよねー」という思い出話がされるだろうか?
どちらかといえばほんの少しおしゃれな洋服屋さんの冬物衣料売り場の真ん中に立っている柱に貼っていある広告のようなイメージではないだろうか。
でも実際にこの写真に写っている彼は帽子を嫌がっているまさにその瞬間なのだ。
「写真は時として嘘をつく」
その時その空間で起きた事は必ずしもその通りに記録されないのが写真の特徴だ。
”写真は物理的には何も語らない。写真はその下に書いているテキストの口を借りて話す”
Mr.ウギュの写真大辞典に書いてあったある写真家の名言を用いてみるとこのように言う事ができるが
写真という媒体は真実を映し出す反面、事実とは異なる印象を与える事もできる。
例えばポケットの小物を取ってもらう仕草を撮影すればポケットに手を入れてかっこつけている写真が撮れるように
しなければならないことは「実際の行動と狙っているイメージが合致している状態」を作り出すことが非日常を作るのに必要だ。
ではこのモノクロ設定はそういった印象作りにどう影響を与えているだろうか。
余計な情報を排除するなどの副次的な理由も様々あるが、最もその理由として
挙げるべきは「光の強さを示すアイテム」としての役割だ。
強い光によってディテールが失われた帽子は端の微妙な質感を残すのみで
同様の質感を持つセーター生地の洋服と共に「どういうものを着ているかはわかるけど主張は強くない」状態に留まる。
直射日光が当たっている部分をハイライトにし、その部分は少し飛ぶくらいに設定する事は
全体的なハイキーをキープしながら明暗差を付け、表情の部分が適正になるよう輝度調整を計るねらいがある。
仕草もこのイメージに一役買っている。
被写体の彼は当然帽子が嫌ではずそうとしているだけだが(笑)彼の帽子をはずそうとする姿は
撮影中に何度も見る事ができた為、彼がどのように、どのくらいの強さ、どれくらいのスピードで
帽子を外すかをある程度予想する事ができた。
また、はずす時の表情がただ嫌がる顔ではなくうつむいて「またやるのか仕方ないな」という表情をする事も
撮影中に見て取れた。
そこからイメージを構築することになる。
普通、帽子をかぶっている瞬間をどうにか撮ろうとするならばモノクロに設定を変えている場合では無い。
そんな事をしていて撮れていねかれば一生懸命かぶせてくれているコーディネーターに怒られてしまいそうだ。
しかし、私は彼の特性を活かして何か違いを生み出せるのではないかと考えていた。
それは前にも書いた「少しの非日常を感じてほしい」という感覚が発動した瞬間だった。
直射日光が眩しい事をネタにしてこの位置まで来てもらい、コーディネーターのたかちゃんは
なんとか帽子をかぶせようとシャボン玉をくわえてみせながらかぶせる技を繰り広げ彼との勝負
に挑んでいた。
シャボン玉が終わり、我に返った彼は帽子を外す動作に入った。
それまでのリサーチどおり上にではなく後ろに引っ張り、伏し目がちな表情をしながらゆっくりと・・・。
彼のそんな特性と雰囲気を見て想像したのは
「ほんの少しおしゃれな洋服屋さんの冬物衣料売り場の真ん中に立っている柱に貼っていある広告」
だった。
追記:きちんとぼうしをかぶっている写真も撮っています(笑)
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