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京都桂店
scrollable

『観察』

投稿日:2016/9/15

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Lifestudio KOSHIGAYA

 

photo by volvo

codi by takako

 

 

私たちは概ね1日に3件の撮影を担当させてもらっている。

週に換算すれば15件、月なら60件、年間なら720件だ。

 

720回の撮影をしていれば大概の子供達の事は「どんと任せてくれ」と言えそうなものだが

残念ながらそう簡単にはいかせてくれないのが子供達だ。

経験を積めば当然ある程度は知るようにはなるが、まだまだわからないことは多いし

そういう意味では全ての撮影、全ての写真が同じにはならない特殊性に富んでいる。

人は皆違うのだと改めて実感させられる毎日だ。

 

彼女も5年勤めた私がそんな事を改めて考えさせられた1人だ。

妹と2人姉妹で来てくれた彼女だが、撮影のメインは彼女ではなく妹の七五三だった。

 

撮影前からすでに「二人とも男性が苦手だ」という情報は伺っていたが、7歳と9歳ならば「そんなこともないだろう」 

と5年で蓄積した自分のノウハウを信じきっていた私は、出会った直後に玉砕することになる。

 

しかも5年前にも私が撮影に入っていたのだ。恵比寿店で・・・。

ママさんと感動の!?再会を果たした事で関門はひとつ突破したが、まだまだ先は長かった。

目も会わなければ会話もままならない状態が続きながらも心のドアを叩き続けていた所に

「お姉ちゃんが小声でずっとシャボン玉やりたいって言ってる」というコーディネーターのたかちゃんの一言

が私にヒントをくれた。

 

それはシャボン玉で笑うかもしれないという事ではなく、彼女が心の奥底に野心を秘めている事を意味しているのだという事だった。

 

彼女は本当は「やりたいようにやりたい」のだ。

私も長男だから同じような経験がある。

自分も欲しいのに分け与えなければならず、譲らなければならない。 

望みを打ち明けたいのだが照れが邪魔をする性格なのだろう。

 

たかちゃんと話しながら彼女の望みは衣装にも拡大していった。

洋服を決めながら次第に撮られたいという野望が強くなっているのを確認し、彼女のソロパートを迎える事になった。

 

私は常々自分の写真の核心は「統一感」だと思っているが、逆に言えば気をつけている事もこの統一感だ。

統一感とは写真を構成する全ての要素が「その一枚専用」になっている事を意味しているが、言葉を変えると全部にきちんと「意味」があるということになる。

最近世界遺産になった上野西洋美術館で有名人の絵画をみればわかるが、絵画は無意味なものがキャンバスの中に入る性質を持っていない。

キャンバスに絵を描くには「行為」が必要で、行為するためには「意図」が必要だから意図の無いものは描かれない。

 

ではなぜ写真には時として必ずしも意味を持たないものが写されるのだろうか。

残念ながら写真には必ずしも「意図」していないものが映し出されるからである。

絵を描く人が描く前に「どう構成しようか」と考えるように、写真を撮る前に自分の中に「どう撮ろうか」という意図がはっきりと

ないまま子供達のテンションに押されシャッターを押す事に慣れてしまっているのである。

 

写真は美しさの観点は絵画と似ている部分が多い。

写ってしまう余計なものをそぎ落とし、衣装や背景、光や表情などが「その一枚専用」にさせることが絵画でいうところの

「意味のないものは書かない」ということと似ているのだろう。

絵画にはあまり興味は無いが・・・。

 

 

この写真における「その一枚専用」の示す所は上に書いた「彼女の野心」にある。

ポイントは「ヒールを履いた足」と「表情」。この二つだ。

表情の重要性は上述の通りであり、この表情を引き出す伏線になっているのが衣装であり、特にヒールの靴だからだ。

 

恥ずかしがり屋さんではあったがポーズは取ってくれたことは感謝すべき点だった。

特にヒールを履いた事によってポーズの意識が高まり、また女性特有のしなやかさが上がる事で私も動かしやすくなった。

 

ポーズに関しては女性を撮る時のセオリーを実践したにすぎないが、足を左右ずらすことは女性特有のラインをキレイに出す事と

ヒールで上がったふくらはぎを強調できるポイントだ。

口元に手を置くのもセオリー通りだが、彼女にこの動作をしてもうらうには「ポーズを取らされていない」と感じさせる事が肝心だった。

 

この写真の前の写真では上半身は起きた状態で、手は膝の上に置いて足元を見ている。

この写真に移る過程でで手をひっくり返し、膝の上に寝そべってもらう。

 

あとはその瞬間に何かこの表情を生み出す言葉を言う。何を言ったかは忘れたが・・・。

瞬間、カメラに見せた不敵な笑みはポーズやヒールと相まって女性らしい雰囲気と彼女の「野心」が表に溢れていた。

 

次にポイントとなるのはトリミングだ。

トリミングも写真の構成要素の大きなひとつであることから、これも同様に「その一枚専用」でなければいけないと思っている。

 

トリミングで注意した点は二つ

1:不自然にならないこと

2:伝えたいものだけに限定すること

 

「ヒールを履いた足」と「表情」の二つにヒューチャーするためにはできるだけ

余計な要素はそぎ落とし、いわゆる圧縮効果を利用してできるだけ伝えたいものだけが伝わるように調整する。

この写真は極限までそぎ落とした写真と言えるだろう。

 

頭の上に隙間をあけなかったり、体の一部分を切ったのにはこの圧縮効果が意味している。

人は写真を見る時に写真に写っている要素が多ければ多いほど主題を見つける事に苦労する。

 

この写真において伝えなければいけない事を伝えるためには隙間があってはならないし、体さえも写さない方が

よいと考えた。しかし、セオリーをはずれれば当然違和感が出る事から「体がきちんと想像できるギリギリでトリミング」する事に注意を払った。

 

もしもう少し切りすぎて左肩が見えなかったりすれば違和感が出ていただろうし、逆にもっと体を写していれば

ヒールを履いた足は強調されなかっただろう。

足ものとに投げ出された鞄が軽く写っているのもこの状況を想像する要素となっている。

 

最後は「光」だ。

黒髪がキレイに見える彼女を見ながらどこで撮影する事がベストか考えていると、逆光が適切であると規定した。

また、足にヒューチャーするには足をよりキレイに撮らなければならず、細く撮らなければならないような足でもないが

一部に日を当てる事で足の印象を強めた。

さらにこの写真における光の核心部分ともなるのが左側の隙間を埋めるフレアだ。

前ボケの造花が西日を浴びて輝く事でフレアのような働きをして左の隙間を埋め、構図の安定としての役割も果たしたし、

彼女の雰囲気をひきたたせる役割も担った。

 

撮影が終わってからも様子の変わらない彼女を見ていると、この一枚を撮る事が出来たのが不思議なくらいだった。

「非日常を撮る」ということの難しさを改めて感じた一枚だが、同時に自信にもなる一枚だ。

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