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花嫁

投稿日:2016/6/30

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photo by suzuki

codi   by kudo/masakuni/masakuninohaha/minna 

 

ガラガラガラ・・・・ゴロゴロゴロ・・・

固いコンクリートの上を重いものがひきずっているような音がスタジオの二階にまで聞こえてきた。急いで階段を下りていくと一人の女の子がいた。
「こんにちは。よろしくお願いします。」と丁寧に私の目を見ながら挨拶をしてきてくれたが、女の子が持っていた巨大なトランクケースのほうに目がいってしまった。
これから海のきれいな島に4泊5日の旅行へ行ってきます。という感じ異様な大きさに見えたのは、女の子が小柄だったからかもしれない。
巨大なトランクケースが気になったが、とりあえずスタジオへ案内をして、他愛もない会話をしながら撮影の打ち合わせをした。
「こんなに持ってきちゃいましたー」と笑顔で言いながら、巨大なトランクケースに手をかけた瞬間、私は緊張した。一体なにが入っているんだ!!?
巨大なトランクにパンパンに詰まっていたのは、テレビで見るような一万円札の束がぎっしりと詰められていたというのは嘘で、純白のドレスと真っ赤なドレス・真っ白なハイヒール・手作りの花冠・色とりどりのブーケ・木製のアルファベット・JUSTMARRIEDと書かれたガーランドだった。その人は口を手で押さえ笑いながら「いっぱい撮って欲しくてー」と一つ一つ嬉しそうに説明をしてくれた。
まるで子供のおもちゃ箱みたいなトランクケースに詰まっていたのは、誰かに写真を撮られるという楽しみだった。
目の前のことを楽しもうとする姿は人に伝染する。
私も単純に自分を持っているものをすべて出そう。そして、楽しもうと思った。

結果・・・楽しかったが時計を見ると3時間という長時間になっていた。

私だったら、カメラを向けられている自体でも疲れることなのだが、たくさんの細かい指示を応えることにも疲れる。撮影者によくあることだが、ダムから滝のように流れてくるエナジーを止めることが本当に難しい・・・。私はわざわざ大阪から来てくれた被写体に申し訳なさを感じて、長時間になってしまったことに謝った。
返ってきたのは、建前のない「楽しかったです!」だった。もしかしたら、気を使って疲れてないフリをしてくれているんじゃないか?とも思ったが、子供のように純粋に楽しんでいた女の子を疑うことのほうが間違っていた。
男の私にはすべてを理解できないかもしれないが、女の子から花嫁になることは、特別に楽しいことなのかもしれない。
憧れのウエディングドレスを着て、自分の外見が変わることだけが、特別に楽しい理由ではない。ウエディングドレスは幸福の象徴なのである。

幸福とはなんなのだろうか・・・?

一般的に花嫁になることは、幸福になることだという認識がある。
私たちは子どもから大人になっていく過程で、何度も自分のライフステージが変わってきた。園児が学生になり学生から社員になることと同じように、女の子も花嫁というライフステージに変わってきた。自分のいるライフステージによってなにが幸福なのか?も同時に変わってくる。現具、成績、財産と漠然となにかをたくさん持つことが幸福だと思うようになるが、幸福の器にたくさん入れても穴が開いているため、なかなか満たされることがない。
結局、ライフステージが変わったとしても根本的に幸福だと思うことに変わりはないことに気づくようになる。それは「私の近くに誰か居て欲しい」ということだと私は思う。

「孤独は山になく、街にある」という言葉がある。

一人で部屋にいるから孤独なのではなく、大勢の人々の中にいて、自分がたった一人であり、誰からも受け容れられない・理解されていないと感じているならば、それは孤独ということである。たとえ他人と交流があったとしても、幸福の器が満たされることがなければ孤独といえる。だから、私は自分のことを無条件に愛してくれる人や人たちが一緒にいることを幸福だと思う。
花嫁のウエディングドレス姿は、私たちが本当に望んでいる誰かと一緒にいることを約束された幸福な姿として、私たちの目に美しく写る。
女の子はカメラを向けられること自体が楽しいわけではなく、幸福な私を美しく記録されることを楽しんでいたのだと私は思う。

不安や葛藤・・・安心や信頼・・・それらが混ざり合って一つの決意した女の子は花嫁になり、愛する人と共に次のライフステージを生きていこうとしているその幸福な姿・・・・・。

私たちは、独りではない一人の花嫁の美しさの存在を写真で証明しなければならない。

それがこの1枚である。

この写真の重要な構成要素は【基本的な三分割比率】【想像させる余白空間】【白の心理的効果】の点である。

【基本的な三分割比率】

この写真のベースとなっているのは、花嫁が四角の中にバランスよく配置されていることである。バランスにはいろいろある。意図的に被写体を四角の中心にしたり、右に寄せたりして余白をある割合に均等に確保することで、バランスが良くなる。想像してみて欲しいが、四角の3分の1を意識して縦の線と横の線を写真に線を引く。そうすると、格子のようになり、縦と横の線が交差する箇所が4点あり、均等な割合のブロックが9個になる。
基本的な三分割比率はこの線が交差する4点とブロックの9個を利用して、適切なバランスを形成する。

撮影者が簡単に意識できることは、どこにを配置するか?、である。

交差する4点を基準にして、ある1点を意識して配置するのもいいだろう。またはブロックの9個を基準にして、いくつかのブロックを意識して配置することを考えるのは、適切なバランスを形成する一つの戦略になる。
この写真は、被写体を中心に配置することで、均等な割合のブロックが左右に確保され、『対象』というバランスが形成される。そして、被写体の頭の上に三分割されたブロックの1個を確保することで、『三分割比率』というバランスが形成されている。
この基本的な三分割比率により、1枚の写真を『安定させる』という効果を与えている。

 

【想像させる余白空間】

余白空間とは、字の通りに被写体以外の白い空間である。
余白は無駄なものではなく、撮影者によって意味を与えるものだと私は考えている。この写真では、四角が約9割ほどの余白空間になっており、被写体が広大な空間に置かれているような雰囲気である。被写体を中心に前方、後方、真上に開かれた余白空間によって、目では確認できない『なにか』がそこにあるようなイメージである。
公園の古びた椅子を見て、誰かがついさっきまで座っていたようなイメージを連想するように、私たちは目だけで認識しているわけではなく頭を使って対象を『想像』するということが出来る。
一人の花嫁になるまで簡単な人生ではなかったはずだ。不安や葛藤・・・・安心や信頼・・・・・。花嫁になる決意をした瞬間に、これまであった多くの出来事を思い出すなんともいえない感情がある。想像させる余白空間は、被写体の交差する感情を『想像させる』という効果を与えている。

 

【白の心理的効果】

この写真を色で言うと白である。背景が白であり、ウエディングドレスも白でほとんど構成されているからだ。この写真で色はとても重要な構成要素である。
私たちは色を見て直感的に感じる感情がある。単純に、好きや嫌いという感情が働く時もあるし、思い出や物事に連想させる時もある。白というのは、清潔感、新鮮、無垢、純粋、出発・・・という高い好感度な心理的効果に働きかける特徴を持ち、花嫁のイメージと連結され、より白の心理的効果を与えている。


 

えりさんにとって花嫁になることは、どのような意味があるのだろうか?

本人に聞かなければ正確な答えは分からないが、幸福なことに変わりはないだろう。幸福なことは、えりさんの巨大なトランクケースが象徴しているように『目の前にあることを楽しむこと』なのかもしれない。これから普通に生きているより多くの責任も不安も発生もするが、同時に孤独ではない二人が目の前にあることを楽しむという幸福に向かっていく旅行に出発もする。えりさんは幸福のトランクケースを持って旅行の準備は出来ている。

あとは、えりさんの隣の人だ!

おい!!トミキ!!旅行の準備は出来ているのか?

えりさんからメッセージがきたぞ!

「今後ともとみきにビシバシご指導お願いします!!」ってな。

楽しめよ。

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