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EVENT!!!!

投稿日:2017/5/31

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始まりは、1本の電話から。


予約日が近くなったその日、私は最終確認の電話をかけていました。
数回のコールのあと電話に出たその人は、幾つかの業務的な確認の間も、弾むような明るい声で話してくれました。
『楽しみにしてます。ライフスタジオは、家族のイベントなんです』

その一言は、私の心の琴線に触れました。
ライフスタジオでの撮影に、どんな想いを持ってくださっているのか聞いてみたくて、色んなお話をさせていただきました。

パパさんも、毎年の撮影を楽しみにしてくれていること。
写真をデジタルフォトフレームに入れて、いつも見れるようにしていること。
前回の撮影では妹さんがメイン撮影で、ソロのなかったお姉ちゃんは少し拗ねてしまったこと。
お兄ちゃんも、他人に撮影されることに気恥ずかしさがない訳ではないけれど、「これは家族のイベントなんだから、お前も毎年来るんだからな!」とパパさんに言い含められていること。笑

言葉の端々から、子どもたちや家族への愛情深さが感じられる口調でした。
電話越しだけど、それでも何だかキラキラした想いが感じられる、素敵な出会いの一端。
「撮影プランを考えておきますね」というその時の私の言葉は、本当に本心から出たものでした。


【ライフスタジオは、何よりも関係を大事に考えます。】
HPに書かれたこの言葉を体現したくて、試行錯誤を重ねていました。
今年、自分の主題を『調和を生む人』と設定し、一緒に働く仲間たちやここで出会うお客様と、自分との関係の作り方について考えてきました。
そして、自分が撮影で提供できるものについて、改めて振り返ってみた時、
『私は、本当に目の前のひとの為に撮影をしていると言えるのか?』という疑問点が湧いてきました。

経験が長くなり、ある程度喜んでもらえる写真を撮ることができているとしても、それは本当に、「そのひとの為の」「そのひとが求めている部分を満たすことのできる」写真であるのかどうか。
私は、自分の経験と固定概念に基づいて、自分が良いと思うものばかりを押し付けているのではないか?
そう思った時、それは少々傲慢なのではないかと感じられました。

もっと丁寧に、相手が求めているものを知ろうとする姿勢が必要だし、
もっと真摯に、自分の想いを伝えていく方法が必要だし、
もっと謙虚に、自分に足りないものを明確にしていくことが必要なのではないか。

相手が何を求めているのかを知り、自分が何を持っているのかを知り、互いに求めているものと持っているもので何を作り上げることができるのかを知らなければならない。
私は、今まで恐れて逃げ回っていた「客観」ときちんと向き合って、受け入れて、知らなければならないと思いました。
それこそが、「関係」を育んでいくことである筈だから、です。

確認電話でお話しさせていただいた内容を基に、私はこのご家族の撮影テーマを「EVENT!!!!」と設定して撮影することにしました。
メインは前回拗ねてしまったというお姉ちゃんの七五三撮影だったのですが、家族全員参加の撮影空間を作ることに意識をしました。
撮影中に、家族の会話が行き交う撮影空間であること。家族全員が撮影の中でそれぞれの見せ場があること。私たちは、とにかくその家族のイベントとしての思い出作りを盛り上げていこうというスタンスで,関係形成をしていくこと。
撮影当日までに、撮影の流れをベースとして書き出して、一緒に入ってもらうSakiちゃんに共有して、撮影に臨みました。


着付け部屋にご挨拶に伺った時、にこやかに挨拶をしてくれたママさんの笑顔は、電話での印象とぴったりと重なりました。
「あのあと、要望やわがままばっかり言っちゃったなあって、ホント冷や汗かいちゃいました」と笑うママさんに、
「今日の撮影プランは『EVENT!!!!』です!」と宣言しました。
ライフスタジオでの撮影を『家族のイベント』と言って頂ける喜び、そのイベントを全力で盛り上げていきたいという私の決意表明は、ひょっとしたら引いちゃうんじゃないかという危惧もあったものの、ママさんの笑顔であっさりと受容されました。
ライフスタジオを今までに利用した経験があるからこそ、撮影に対して「こんな感じ」という認識はある程度おありだったのかも知れません。ライフスタジオでの撮影を「家族のイベント」と仰って頂けるのは、今までの撮影者たちが信頼を得るだけの内容と結果を繋いできてくれたからです。
今回は、その信頼をありがたくベースにさせてもらい、更にその時間を良質なものとして過ごしてもらいたい、という提示をしました。
求められているのは、「家族のイベント」に相応しい楽しみの空間と、美しい思い出の記憶。
私が持っているものは、それを盛り上げたいという自分の想いと、それに共感してバックアップしてくれる仲間たち。

前述の、HPに書かれた言葉には続きがあります。
【素晴らしい友達に出会い、素晴らしい写真を創り出し、すばらしい思い出を、大切にしていくこと・・・】
私がこの時取り組んでいたことは、正にこのこと、でした。
(たぶん)
この撮影までの間、『調和を生む人』としての実践を重ねていく為の私のプロジェクトは二転三転し、社長の言葉を通訳してくれたジョンジョンや店長の五明さんと幾度も話し、店舗でみんながプロジェクトについて話す時間の多くを私の為に割いてくれていました。
概念的で形式化することが難しい、とされた私の主題に対し、煮詰まりながらもみんなからの客観をもらいながら、ようやく、一度崩した形式を組み立て直したタイミングでの、このFamilyの来訪でした。
このFamilyの「家族のイベント」を大切に演出していくことは、私だけでは到底できなかったことでした。
青葉店だから、できたことなのだと、思っています。


75枚目は、家族写真にしようと決めていました。
「家族のイベント」のフィナーレに相応しい、家族写真。
女の子たちには「ママにぎゅーってしてね!」と声をかけながら、年頃のお兄ちゃんには最近流行りのネタからフレーズを拝借して、
「あれだよ、『with B』くらいの距離感で寄り添ってみ?」と、若干雑な口調で伝えました。
この雑さは、気恥ずかしさが出てきているであろう彼にとって、負担を払拭する為のものでした。
家族写真のバランスを考えた時、画角の中での三角形を意識しますが、彼はその辺を担う位置にいました。
ママさんの懐に入るくらいに重心を前に持って来てもらいたかった時に、何気ない言葉選びがごく自然に動きに繋がることを、知っています。
忠実に遂行しなければならないという使命感より、ちょっと適当なくらいでも良いかと思わせる、余裕を持たせる為の一言。
雑なくらいでもちょうど良い、そのくらいの関係性は作れている。そう思っての言葉の選択でしたが、結果的に彼の表情を含めて良い方向へ作用しました。
2017年の家族のイベントの、締めくくりの家族写真。
よし、終わり。と思った瞬間、自分の中にどっと湧いてきた達成感は、ここ最近感じた中でもよりキラキラしたものでした。



目の前の人が求めていることを、いつも自分のモノサシで見ていました。
そして、自分が持っているものだけで押し付けていました。
今回の撮影を通して、私の中をたくさんの客観や他者の存在が透過していき、幾つかの視点は新しく新鮮なものでしたし、経験に支えられた面もありました。
いつもよりも、基準を他者に置くことと、その基準に合わせて自分の持っているものを改めて見直し、一緒に作っていくこと。
それは、自分にとって正に「調和を作っていくこと」に必要な過程でした。

家族のイベントは楽しんでもらえましたか?と聞くと、ママさんはにっこり笑ってうなずいてくれました。
来年も、再来年も、こうして家族のイベントとして、ライフスタジオに来てもらいたいと、心から願っています。
ライフスタジオは、そんなご家族の思い出の空間に寄り添い続ける写真館でありたい。
そして、自分自身もまた、そういう場にいるということを大切に、写真を撮り続けたいと思っています。


Life studio No,99
Yokohama Aoba
Photo by Reiri / coordi by Saki

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