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投稿日:2017/3/31

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透明感。女性ならば雑誌や本でもよく目にする言葉です。化粧品の説明などでも「透明感のある肌へ」という文があるように、人を美しく見せる要素のひとつでもあります。
透明感とはなんなのでしょうか?
透明感を他のものに例えるなら、澄みきった水のようなイメージです。
水は、色々な姿を見せます。滝は荒々しく力強いですし、海は深く穏やかな印象を与えます。
どの姿も美しいことには変わらないのですが、透明感とは、泉の湧き水のような姿を想像します。濁りのないその姿は、何色にも染まっていません。
純粋さ、というのは"白色"に例えられますが、水は無色です。
無色透明に感じるものは、純粋さというよりは、何か他のものに感じられます。
透明感はどこに存在するのでしょうか。
例えば森の空気にも、透明感があるような気がします。
空気や風や水という、色のないものも人はなぜか美しく感じます。
それは人の感覚が視覚だけではなく、触覚、聴覚、嗅覚、様々な感覚を使っている証拠であり、全身を使って美しさを感じているのだと私は思います。
だからこそ、透明という、色も形もない姿も捉えることができたのでしょう。
では人の持つ透明感とはなんなのでしょうか。
単純に、色白な肌は透明感があるように感じますが、美白と透明感は厳密には一応分離されています。
肌でいうならきめ細かさとか、ツヤ感など。
ですがその人のまとう空気が清く澄んでいることも透明感のひとつです。そういった人の持つ透明感の要素は、はっきりと視覚だけで捉えることは難しいものです。
ある人が、有名な女優さんに直接お会いした際「画面の中で見るよりも、透明感が圧倒的に違った」と言っていました。
当時の私は不思議に思いました。透明感のある人ってどういうことだろう?
なぜ直接会うことで、その透明感がわかるのだろう?
私たちはみんな、自分とは何だろう、どんな人だろう?と考え、人と接していく中でその答えとなる部分を見つけていきます。その中で、自分はこうありたいと意志を持って接するようになります。そして、周りにもその意志の感じられる行動をします。
しかし、透明感を意識した人柄とか、行動とはあまり耳にしません。
透明感とは、意識してこう行動するというものではなく、その人の持つ「視覚だけで捉えることのできない、美しい部分」のことではないかと思います。
木が揺れたり、肌に空気があたって「風が吹いている」と感じるように、空気が澄んでいると感じるように、視覚以外でも人は形のないものを感じ取っています。
透明感とは、その人が持っている心が、所作や息遣いや言葉や表情に表れ、周りがそれをなんとなく視覚以外でも感じているのではないでしょうか。
形がないから、捉えるのも難しく、意識していなければ見過ごしてしまうようなものです。
写真の女の子から私が感じたのも、その透明感だった気がします。
全体的に淡い印象で、肌も白い子だったのですが、その他にも形にはならないけれど綺麗をつくる要素がある気がしました。子供らしく元気で活発なのですが、私はこれが好き、とはっきりした自己を持ち、少し落ち着いて大人びていて、この子独特の綺麗さがありました。
ふわりとした見た目に反して、あまりフリフリしていたりガーリーな女の子らしい服装を好まずかっこいいものを好む子だったので、コーディネートもモノトーンでシンプルなものに決まりました。必要以上に着飾らないのも、彼女の綺麗さを引き出していました。
私はこう、という意志が、目には見えないけれどそこにある内面の美しさを感じさせました。
●どのようにして表現したのか?
まず要素の一つは光です。
コントラストの強い光は、力強さをイメージさせます。男性をよりかっこよく撮ったり、女性の強い心を示すなら影のはっきりとつく光が良いと思います。
ここでは彼女の持つ透明感を出すために、あまりコントラストのつかない光を使用しました。
全体的に柔らかい光があたり、包み込むような光は、強弱の無い落ち着いた雰囲気を描きます。奥側の窓から入ってくる自然光が彼女の輪郭を淡く照らし、ふわりとした肌感、茶色の優しい髪色がより存在感を持ちます。
コントラストが無く平坦な光ですが、彼女の持つ空気感に合っているかなと思います。
しっかりしたカメラ目線ではなく、伏せた顔は私たちが意識して見ることのないふとした表情のひとつです。笑顔は人の目を惹く表情で、好まれる側面ですが、人は常に笑っているということは当然ありません。誰かといて楽しかったり、嬉しかったりしたときに現れる表情であり、「その人以外の存在」を感じさせるものです。人との関係性を映すのであれば笑顔は素敵な意味を持ちますが、そうで無い場合は違和感を感じさせます。
この伏せた表情は露出をアンダーに撮れば、アンニュイな、悩める人のようになりますが、このような光の中ではもう少し柔和な印象になります。どちらかというと安定した、静かな思考です。子供と大人の狭間で「自分とは」を考える、ひとりの人としての姿です。 
リボンやレースなど少女風でもなく、子供らしくもない服装。そして大人びた表情が、彼女の「子ども時代を過ぎ、自分自身の姿を探している時代」に合っていると思います。 
まだ色のついていない、でもしっかりとそこにある彼女の意志は、森の空気や澄んだ水のように人を美しいと思わせる要素だと考えました。
透明感とは、形にない分捉えることのできないものですが、確かにそこに存在しているその人の意志であり、他者が感じることのできるものだと思います。
しかし誰でも持っているものではない、特別な要素の一部です。
そういった特別な空気感を写真で現し、彼女自身や彼女の周りの方が初めて発見する彼女の美しい側面のひとつとなるなら、カメラマンとして嬉しいことだと思います。
 

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