フォトジェニックアーカイブPhotogenic Archive

『奇跡の集合体』

投稿日:2016/12/30

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Photo by HIRO
Coordinate by Choi Eunpyo & Lisa

この世界に当たり前なことなど存在するでしょうか?
ふと見上げた空に広がる景色。
同じ色、同じ雲の形、同じ空模様は二度と現れないでしょう。
たまたまつけたラジオから流れる音楽に心救われること。
もしチャンネルが一つでも違えばその音楽に出会うことはなかったでしょう。
今日出会えた人々。
人は生きているうちに一体何人の人に出会えるのでしょうか。
70億人の中で巡り会うその限られた出会いは奇跡的な確率でしょう。

私がここに存在し、この世界に生きていることに当たり前なことなど一つもないはずです。
当たり前というメガネをかけてしまえば、見えてくる世界は色を失い、つまらない日常になってしまうかもしれません。
そのメガネを外せばそこには輝かしいたくさんの奇跡が溢れています。
きっと人生はそんな数えきれない奇跡の集合体なのでしょう。


写真とは人生に無数に散らばった奇跡の証を、時間と空間を超えて残すことができる物なのかもしれません。
シャッターを切り、撮像素子に光が当たっている時間は1/100秒など本当に一瞬です。
その一瞬にたくさんの要素が写真という四角いフレームの中に詰め込まれます。
被写体、背景、光、色、構図、撮影の時間帯・・・。
一つ一つがその一瞬にそこに存在したということは当たり前なことではなく、どれも奇跡的なことです。
無数に散らばったその奇跡をどう集めて、いつどうやって四角いフレームの中に写していくのか。
カメラを握った人間にその選択権が委ねられ最終的にアウトプットをする責任が与えられます。
二度と同じ瞬間はない、大切な一瞬を収める重要な責任がカメラマンにはあるのだと思います。
ライフスタジオでカメラマンとして毎日カメラを握らせてもらい、当たり前のようにたくさんのお客様と出会わせてもらい、撮影をさせてもらっていますが、果たして自分はどんな奇跡の集合体を残すことができるのか。
常にその責任の大きさを考え、見つめ直していかなければならないでしょう。

今回の写真の被写体との出会いは午後3時頃。
12月のこの時間帯は、もう太陽が沈み始め西日が強く差し込む時間帯です。
まだあどけない8歳の笑顔の中に、少しずつ大人への道を進み出そうとするようなちょっと大人びた雰囲気が印象に残るお兄ちゃんでした。
彼には3歳の妹がいて今回の撮影は妹の七五三がメインでしたが、本当はお兄ちゃんも撮影をしたがっていたということで、着付けをしている間にお兄ちゃんの撮影もすることになりました。
カウンセリングの報告を聞いて私は
「彼の雰囲気をこの時間帯しか撮れない強い西日の光に包まれた写真で表現してみたい」とすぐに思いました。
所沢には外にガレージがありますが、基本的に小学生以上の子でなければ使用しないので、この時間帯に適切な年齢の子が来たらこの西日を使って撮影をしようとイメージしていて、そのイメージとすぐに合致しました。
ちょうどこの時間帯に撮影をさせてもらうことになった巡り合わせも一つの奇跡だったでしょう。
ガレージに移動し、シャッターを開けて中から外を見るとそこにはイメージしていたキレイな強い光が差し込んでいました。
光の準備は整いましたが、撮影を開始する前にもう一つ今回の写真においてポイントとなったことは意図的に配置されたギターです。
ライフスタジオの写真撮影は一人では行わず、必ずコーディネーターと撮影に入り、一緒に撮影を作り上げます。
コーディネーターとカメラマンのイメージがどうクロスして一つの写真を作ることができるのかもとても大きなポイントとなります。
被写体が着ている衣装は持ち込みの衣装で、その姿はイギリスのロックスターを思わせるような印象的な衣装でした。
この時にコーディネーターで入ってくれたウンピョさんがその彼のイメージに合わせて、すかさずガレージにあるギターを彼の横に配置してくれたのです。
当たり前にペアで撮影に入っていますが、その時に一緒に撮影に入っていることも一つの奇跡だと思います。
光、被写体、コーディネートと、撮影をする舞台は整いました。
あとはどうそれを写真の中に収めていくのかです。

まず一番に考えたのは、初めからイメージしていた光の部分です。
逆光になるように構え、イメージする光に包まれるような表現になる太陽光の入射角を探しました。
また、レンズフレアが現れるように位置と露出を調整しました。
レンズフレアが追加されることにより、ただ明るい逆光ではなく輝く一瞬という動きのある光の表現を加える効果になっています。
次に構図です。
被写体とその横に配置されたギターを左右対称のバランスで画面構成することで写真の左右の重さのバランスをとっています。
今回は特に光を中心とした表現にしたかったので画面全体を二分割した半分に光が差し込む余白のスペースを構成しました。
背景には写り込んでいる木と上部のシャッターの部分が入り、広く構成された余白の部分に要素を配置することで写真全体のバランス的にイメージを締めると共に、ただ光と被写体という構成だけではなく写真の中に何かストーリーを感じさせるような要素になっています。
そして最後にポーズです。
イメージカットとして撮影するために被写体に「自分でジャケットを直してみて」と声をかけ、彼がうつむきながらジャケットに手をかけた瞬間、ファインダー越しにストーリー性を感じシャッターを切りました。
まるでこれからギターを手にし、大きなステージへ向かう準備をするミュージシャンのような。
まさにそれは、これから大人への道を進み出し、未来へと進んでいく彼の希望が表現に現れた瞬間でした。

今回の写真は、被写体・光・時間帯・コーディネーターなど一枚の写真を構成する一つ一つは当たり前なことなど何もなく、貴重な奇跡の集合体であることを再認識させてくれた一枚でした。
特に今回は光を観察し、スタジオの中のまだ知らない光を探そうと取り組んでいる中で見つけることができた瞬間でした。
もっともっと一つ一つのことを注意深く観察し、自分がかけている当たり前というメガネを外すことができればもっと多くの奇跡を見つけ出すことができるのでしょう。

写真の中に写るたくさんの奇跡の証。
その中でも一番の奇跡は被写体がそこに存在し、生きているということだと思います。
そして、そんな奇跡に毎日出会い、撮影を担当させてもらうことは本当に当たり前なことではないはずです。
被写体に何を感じ、そこに散らばった無数の奇跡をいかに紡いでどんな奇跡の集合体を生み出すのか、その最終的な権限はやはりカメラマンに委ねられています。
ライフスタジオに大きな期待を抱いて来てくださる方々の想いを考えると、その権限の対にある責任の大きさに毎回緊張感が押し寄せます。
しかしその反面、次は一体どんな奇跡と出会えるのだろうか、そんなことを考えると期待に胸が膨らみます。
もう2016年も終わり、新しい年を迎えます。
来年もどんな奇跡と出会い、どんな奇跡の集合体を残していくことができるのでしょうか。
今から楽しみにしながら、その時のために日々準備をしていきたいと思います。

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