フォトジェニックアーカイブPhotogenic Archive

『黒く凛と白を感じて』

投稿日:2016/7/30

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Yokohama Aoba Photo

Photographer: Ryo Takahashi

Coordinater: Kaori Sasaki

 

 

かたん、かたん、という足音と共に彼女は着付け室から出てきた。

少し不安そうな表情と、凛とした雰囲気が印象的なのを記憶しています。

七五三の撮影というのは着物に袖を通す時から始まっているのかもしれない。

いつもと違う姿、いつもと違う場所。

何気ない笑顔でさえ、いつものそれとは違って見える物です。

いつもカメラを向ける度、簡単な会話から始める。

好きな食べ物は何?好きな動物は何?

簡単な質問とともに彼女の表情はいつもに近づいて行く。

しかし初対面である私は求めている彼女のいつもを知らない。

だからこそ簡単な質問を繰り返し少しでも知るという事を繰り返すのかもしれません。

しかし、その質問の本質は質問の内容でなく彼女がどのような反応を見せてくれるかという洞察的な部分に有ります。

何も知らない人が私が投げかける言葉を聞けばきっと、そんな事聞いて何になるのか疑問に思うかもしれないですが私は聞きたいのではなく知りたいから聞いています。

 

一瞬の表情のゆるみはイレギュラーな現状をかき消すかのように空間を和ませてくれます。

自然さと不自然さとは主観的な物で客観的な物ではない。

結局それを定義するのは完成された写真であるから、その価値観をはかるのが面白いのではないでしょうか。

 

この写真は自然であり、自然さを演出する為の不自然な写真です。

我々の写真には矛盾点が沢山有り、何もない空間で紅葉が有る訳もなく、彼女のポーズも日常的に行われる物ではない。

しかし、この写真を見て自然という人も居るのも確かな事で、立ち姿の正体が不自然だと言う人も居ます。

私に言わせてみればまっすぐ立ちカメラを見つめる姿の方が自然と呼ぶのにふさわしいのではないかと思います。

結局自然と不自然は紙一重である事が解りますが、どのように見せるかが写真の持つ力の一つだと私は思います。

 

鮮やかである着物をモノクロで切り取る。

その行為に抵抗が有ると以前、写真の話の中で聞いた事が有ります。

それは笑顔が欲しい人に泣き顔を提供しているような感覚からくる疑問だと思いますが、私たちの撮影には笑顔よりも素晴らしい泣き顔を写す素晴らしさが必要です。

常に想像の先を写す事、意外性を持たせる事がその一枚の感動を高めるのだと私は考えています。

 

コントラストが強く、シャープネスも最大に高めたモノクロの設定はシビアな露出感覚を必要とします。

撮影段階での工夫は写真のすべてを決める事になります。

私は基本的に撮影段階で完成させ撮影後に写真の加工はしません。

それが写す楽しさでもあるからです。

この写真は見る人に依ってはバランスが悪く、モノクロという観点で否定的な感覚を覚える人も居るのかもしれませんが、フレーミング、露出、ポージング、光。

写真の構成要素の全てにおいて私なりの計算を行った物です。

 

良い写真とは何か。

カメラを持つ人ならば皆知っていると思います。

しかし言葉にするのは難しく、悪いとこばかりに目がいきがちになります。

写真にはそのものの感覚的背景、視覚的結果が常に有ります。

その双方を自身が理解し、客観視しても何か感じるものが有る。

それが良い写真だと思います。

まぁ、100点の基準は人それぞれが持つ物だと思いますけどね。

 

 

私はこの写真が好きです。

久しぶりのアップですが、相変わらず写真、楽しんでます。

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