フォトジェニックアーカイブPhotogenic Archive

『Time is』

投稿日:2016/5/20

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HairMake:Kaori Sasaki
Coordinaite:Kaori Kobayashi
photographer :Ryo Takahashi
in Yokohama Aoba


 

約3年半。

彼女とであってから短くも長い時間が過ぎた。

 

初めてであったのは新松戸店にて、7才の七五三記念の撮影でした。

写真が苦手で緊張している彼女を前に、入社して間もない私は困惑したのを覚えている。

しかし、人と人は何かを切っ掛けにいつも温かい関係となる。

それは、コーディネーターの力、カメラマンの力、そして被写体である彼女の心によるものなのかもしれない。

短い撮影時間の中、いつしかその場所は笑顔にあふれていたのを記憶しています。

それが彼女と出会った日のエピソード。

 

その後私はここ、横浜青葉店へ所属する事となりましたが、彼女は毎年撮影に来てくれている大切な人。

毎回会うたびに成長し変わっていく彼女を見る度、私自身の事も改めて考えます。

 

私たちの環境での再会は、常に『成長』という概念がついて回ります。

皆会う度、子供達に対して大きくなったねと声をかけるのではないでしょうか。

それは子供自身の成長の一つ。

1年時間が経った事実の中、自分自身は何が変わっているのか。

いつも再会の度その事を考えます。

人間的な成長はあったのか、技術的な発展をしっかりとつかんだのか。

自問自答しながらまた彼女の前に立ち、カメラを構えます。

時間は誰にでも平等な物ですが、身体的な成長以外は人にゆだねられた物であり、自然に成長して行く事はありません。

子供達は日々考え、学び様々な経験を大人よりも純粋に受け入れ内面的にも変化と成長をして行きます。

私たち大人は、自らが望み考え、何をしたいのかを考えなければ学ぶ内容ですら見つける事が出来ません。

自由という言葉の中には自立が条件となっているからです。

 

初めて会ってから3年間、私たちは自分たちで望み成長してきました。

カメラマンにもコーディネーターにもそこに関わる全ての人がこの時間を大切にしてきた結果だと考えています。

この日、スタジオに居た全ての人間が彼女と言葉を交わし、その笑顔と向き合った。

そして今日を心待ちにし数日前から何を着てもらおうか、何を話そうか、大きくなったかなと気にかける素晴らしいコーディネーターのKoba。

彼女を目の前にしてもあふれるその気持ちは、私たちの目指す理想の姿を見せてくれていました。

HMのKaoriも素晴らしい技術で、見た事もないような彼女の姿を引き出していた。

印象にある幼さではなく、小さな大人がそこにいました。

 

彼女達が生み出す素晴らしさに対して私もカメラマンとして持っているもの全てを出し切らなければいけない。

経験、技術は高め続けてきたつもりでいます。

撮影練習はいまも定期的に行い、再会の度に新しい写真を提供出来るように自分なりに学習を続けてきました。

 

技術的観点でも語るべきところが多く有ります。

 

※絞り値:f3.2

柔らかな質感の表現を目的とした数値ですが、何故解放である2.8でないのかが重要である。

ストロボを利用した撮影であり、レンズに直接ストロボの光が影響するシチュエーションでは解放値により光の写り込み方が変化する絞れば絞るほどシャープに光は入り込み、解放に近づけるほど淡くぼんやりと写り込むようになります。

この事から表現したい写真のないようにより、この数値で決定しています。

では何故最小解放値をしようしないのか。

2.8という数字は3.2と半段階の違いしかないのですが、頭が2で有るか3であるかでは写り方に大きく差が出ます。

単焦点を良く使うカメラマンならば感覚的に理解いただけるかと思います。

例えば85ミリなどの抜けの強いレンズを使用した場合、2.0以下1.8などで写した場合大きな露出さと抜けの違いが現れます。

ズームレンズは抜け感こそ大きく変わりませんが、焦点距離の長いレンズほど内蔵の枚数、群数が多いため写り方に差が生じます。

この写真が2.8を選択していたならハイライト側が露出に関わらずもっとにじんでいたでしょう。

このことから3.2の選択に至りました。

 

※シャッタースピード:S200/1

このシャッタースピードは外部ストロボの同調速度の限界数値です。

これ以上スピードを上げた場合ミラーの影が写真に写り込んできます。ハイスピードシンクロなどの設定を行った場合はまた別ですが、発光量が不安定になるため通常の先幕シンクロで撮影を行いました。

自然光とのミックスで有り、絞りも3.2まで開けている環境の為かなり露出計自体はオーバーな数字を算出します。よってこのリスク回避のため下記のISO感度により調整を行います。

 

※iso感度:100

5DMK3の標準感度設定で最も低い感度設定です。

ストロボ、自然光を伴う環境ではかなりの高露出を得られるため最も解像度の高い感度を使用可能にしてくれます。

感度を下げるほど高精細になるので美しい写真を撮る際に低い感度は必須です。

特に複雑に光が絡み合う環境で、なるべくディテールを出したい時は低い感度設定の撮影は必須となります。

カメラマンは環境をみて、仕上がりを想像して設定を行い、写したい写真にとってもっとも適切な判断を行わなければいけません。

経験から教訓から全ての数値は算出され、想像した物を現実に写し出します。

 

※レンズ:EF70-200

望遠レンズを使用していますが、撮影時焦点距離は70ミリでの撮影となっています。

では標準レンズでも可能なこの焦点距離をなぜ望遠レンズを使用して写す必要が有るのかについて話したいと思います。

レンズには外見から見える一枚と裏に有る一枚、そして目に見えないレンズ内に数枚のレンズが内蔵されています。形状を群と数え枚数はそのまま何枚と数えるのですが、望遠レンズの方が群数、枚数共に標準レンズよりも多くなっています。

従ってその分描写は劣るのでが、逆手に取れば少しくすませて柔らかい質感を再現する事が可能です。

この写真のよう強い光を使う場合で意図的に少し淡く写すのであればレンズの特性を生かす事が重要です。

望遠レンズの特徴は遠くが撮れてボケ味が強いという単純な物ではないのです。

同じ焦点距離で同じ数値で撮影しても僅かに露出差が発生するのはレンズの枚数に依る光の屈折率の差でもあるのです。

ですからこの写真に感じては普段デメリットと思われがちな環境を逆手に取る事が成功への鍵だったのです。

 

※レンズフード無し

当たり前のように装着しているレンズフードですが光の角度により四辺に影が生まれる事が有ります。

特にストロボを使用し強い光であり低い感度設定の場合はその影響を受けやすい物となります。

低い感度はフィルムで言うラチチュードが広い状態であり、アンダー部分からハイライト部分までが白飛び黒つぶれを押さえるので、構図内の些細な露出差を拾ってしまいます。

ですからマイナスの要因になりうるパーツは解除するのが妥当です。

逆にそれを利用し弱いヴィネットの用な効果を出す事も可能ですがこの写真には適切ではないと判断した為、レンズフードは解除しました。

 

※ストロボ:580EX2マニュアル発光2/1設定

ストロボのスタンダード設定はETTL発光ですが、今回のようにトランスミッターを利用し、離れた場所で発光させる場合はそのままの設定だと光量が不安定になります。

そのため光量の自動調節(TTE)を解除し、マニュアル発行にする事により安定的な光量を維持する事が可能です。

ストロボの580という数字はガイドナンバーと言い、光量の最大値を示す物ですが580というのはかなりの光量です。

実際青葉のスタジオの広さならば430くらいで十分なので、発行量を2/1まで押さえて使用しています。

 

※ストロボトランスミッター:CactusV6

聞き慣れない名称だと思いますがこれはクリップオンストロボを外部発光させる為の機材です。

クリップオンの基本的な使い方はカメラ本体のアクセサリーシューに装着します。しかしそのままではカメラ位置からの照射のみ可能で、希望の位置からの発光は出来ません。

今回のようにカメラからはなれた位置にストロボを設置し赤外線通信を利用し遠隔操作する為の機材です。

この場所から光が欲しいがその場所に光源がない場合大きく貢献してくれる使い勝手のいい機材です。

 

※カラーセロハン:黄色2枚

カラーセロハンは文房具店などにおいてあるビニール製の折り紙のような物です。

これはストロボに対しての応用編なのですが、西日を再現する為に黄色のセロハン2枚をストロボの発光面につけています。

ですがもちろんそのままでは色が強すぎ美しさに欠けます。

そこを補うにはカメラ内の色調設定が必要ですのでカメラ内設定の項目で詳細を書かせて頂きます。

 

※カメラ内設定:彩度マイナス:ピクチャースタイルポートレート

セロハンの使用により黄色くなりすぎる光を調節するためピクチャースタイルの設定で意図する色に近づけて行く作業を行います。

今回は彩度を下げ、ポートレート設定の元々の赤みを活かしバランスをとりました。

かなりの微調節が必要となる作業ですが、今までの経験からおおよその設定を想像する事が可能だったため色の出し方はスムーズに行う事が出来ました。

 

※ライトボックス

被写体の斜め後ろからのストロボと自然光が強いため、それによって生じるアンダー部分の対処をしなければいけません。

そこで活躍してくれるのがライトボックスです。

イメージ的にはレフ版の代用です。シャドー部分に当たるように配置し、違和感のある影を消すのに利用しました。

自然光やストロボよりも光量は低いため、心地いい陰影を作る事が出来ます。

有る物は効果的に利用出来るなら全て利用するのが私の写真の特徴でもあります。

 

※ソフトフィルター

ソスト効果の強いソフトンBを使用。

このフィルターはざらつきがなくきめ細やかに画を柔らかくしてくれます。

西日を再現するには最も適したフィルターです。

画にたいして温かさ、柔らかさが加わり、元々の固い光のイメージを綺麗に変換してくれます。

青葉に有るフィルターは標準レンズ用の直径のものしかない為、望遠レンズの場合はレンズの前で手で支え利用しています。

サイズが合わなければ使えないというのもまた先入観で工夫さえ有れば大抵の事は実行可能です。

 

※自然光

かなり日が落ちた状態で既に床に僅かに光が当たるような時間帯でした。

肉眼では美しく見える光景も写真に写すとなるとなかなか難しい物です。ですから今回はこうであったら良いなという希望を様々な工夫と機材により再現しました。

 

※被写体の配置:3分割方に基づき左側に配置

美しさの表現は第一に着本意忠実な事であると考えています。

斬新なフレーミングもお洒落という言葉で片付け、なんか良いよねで終わってしまう。

視覚的に安定感を感じ、普遍的に美しいとされる構図は美しい写真には必須な物であると考えます。

 

※ポージング:座り姿、構図のバランスを整える為の姿勢

被写体に焦点を当てたとき最も重要なのがポージングと表情で有るのではないでしょうか。

ポージングはフレーミングにも依存します。

余白を埋める為にどのような姿勢を撮ってもらうのか、他の小物と複合的に見て被写体の位置を言う物を強く考えます。

今回の写真は右側が光、左側が人物と小物で構成されています。

分割する方法により写真を見た時にどこに焦点がいくのかをコントロールする事が可能です。

左右両方共に美しさが存在します。光、人、小物、インテリア。

全体的に見渡したくなる写真は、どこを見ても美しさのポイントが有ります。

一つ一つの要素に緻密な計算を入れる事は写真のそのものの魅力に関係し、人の目を引きつける為に必要な事です。

 

※フレーミング:横写真

横写真で有り、引き写真であるこの写真は水平垂直が保たれんなければ大きくバランスを崩してしまいます。

今回の写真の場合部屋の角に対してスタンドポジションを45°とり、奥に広がる線を水平のラインとして捉えました。

垂直は部屋の角の床から天井までのラインを重視しやや高めからの構図でありながら水平垂直をキープしています。

横写真を選択する理由は全体的に写したいポイントを写す為に必要だったからこその選択です。

 

※前ぼかし:スタジオ常備の植物、透過光を得るため葉の薄いトネリコの葉を使用。

私は普段の撮影の時から何かしらの効果的要素が有るときのみ手前にぼかしを入れます。

今回は全体的に明るい写真となる為、明るさを有る程度落ち着かせるため、四辺に透過効果の有るトネリコの葉を使用しています。

何故この植物を使うかにも理由があります。

光をすかしやすいこの木の葉は重たくなりすぎる事なく、程よく画を安定させてくれるからです。

造花の葉や他の厚手の葉を利用すればたちまち手前に濃い緑が入り画全体のウェイトを重たくしてしまいます。

一枚の写真を良く見せる要素として前ぼかしを利用するのが理想的だと考えます。

まだ細かく開設すれば技術的な話は尽きないのですが、他にも大切な事は多く有ります。

 

時間は人を成長させ、時間は、全ての物を変化させ、時間により交わされる言葉も変わって行く。

写真を媒介して長く人と接して行くという事は時間と共に互いも変化して行くという事。

その関係は写真だけではなく、相手との信頼関係や、共に残してきた人生の証でもあります。

 

私たちの写真は決して1人で作る事は出来ないものです。

大切な人が目の前に居る事と、大切な仲間が横に居る事が絶対的な条件となります。

 

10年近く前、私がカメラを持った頃彼女は産まれ、私がカメラマンとなった頃彼女はきっと歩き始めた。

そして大切な仲間達も当時それぞれの人生を必死に歩みながら今共にこの場所で美しい光景を見ています。

時間は全ての人に平等で多くの偶然と巡り合わせから今この場所に居ます。

残して行く事は彼女が生きてきた証でもあり、私たちがここに居た証でもあります。

 

写真とは時間の記録であり、時間とは止める事の出来ない美しい流れなのではないでしょうか。

 

過去も、今も、この先も。

私たちはその時間の美しさを記録してきたいと願います。

それが写し手の使命であり、価値であり、証であるから。

 

 

大切な出会いと素晴らしい人たちに感謝の気持ちを込めて。

 

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