フォトジェニックアーカイブPhotogenic Archive

Reason,

投稿日:2018/5/31

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Photo&Write by Reiri Kuroki
Coordi by Kazuma Gomei

@Yokohama Aoba



「どんな写真が撮りたいですか?」と問われた時、浮かんだ答えはひとつでした。
「写真を見たそのひとが、自分という存在を肯定できるような写真を撮りたい」。


私は、ひとの写真を撮っています。
ライフスタジオでカメラを持つ以上、基本的には常に『ひと』と向き合っていて、カメラという機械の色んな機能を駆使しながら、その『ひと』を写真で表現する、ということをしています。
そのひとを写真で表現する、なんて言葉は言うが易しで、実際に具体的にどうそれが反映されたかなんて、本当のところはわかりません。
表現は多様であり、見る人によってその受け取り方は千差万別であるからです。
それでも、被写体の前に立ち、よく観察し、そのひとの情報をかき集めながら、その場での最適解を探します。こういう感じなのかな?と仮説を立て、それに基づいた検証を経て、『こういう感じ』を規定し、それをベースに発展的な表現を模索します。
そんなプロセスを経て撮られた写真を、そのひと自身がどう受け止めるかは自由です。
ただ、願わくば、その写真がそのひとにとって(あるいはそのひとを大切に想うひとたちにとって)、新しい魅力を発見するものであったり、そのひとを大切に想うひとたちの愛情を感じられるような、そんな伝わり方をすれば良いなぁと思っています。

だからこそ、撮影者としては自分の写真表現を、撮影技術を、追求していかなければなりません。
折に触れ言っていますが、芸術的な表現の為の撮影技術のみを追求する程ストイックな『写真家』ではありませんが、自分がライフスタジオのカメラマンとして『写真を見たそのひとが自分の存在を肯定できるような写真』を撮りたいのであれば、その為の努力は惜しみません。
横浜青葉店の写真担当であるこばちゃんは、個人のテーマやシャッターへの動機を尊重して、写真主題を設定してくれました。
彼女と話しながら、改めて自分が見直していったのは、『光』でした。


『光』は、その写真の世界観を決定づける、極めて重要な要素であることは言うまでもありません。
自然光やライトボックスの光に始まり、その方向、強弱、硬軟等々、様々な側面から『光』を分析していくことができます。そして、その様々な要素をどう構成していくかにより、写真はまるで異なる印象を与えるでしょう。
微妙な変化と効果を、被写体の表現に合わせて使用するには、それを知っていなければなりません。
強い光がもたらす効果やイメージ、弱い光が持つ印象、柔らかい光はどのように被写体に当たるのか、硬い光が描くエッジをどう活かせるのか……
『光』を観察しながら、色んな使い方に気が付きます。
75カットの中で、5種類の光を使いながら撮影をすること、が、私の撮影における実践的なテーマになりました。
被写体の、その『ひと』の魅力は、その存在は、ある一方向から語られるだけでは不充分です。
75カットという写真の流れの中で、勿論全てを表現することはできないにしても、色んな側面から色んな要素を使いながら、多面的に、立体的にその『ひと』の美しさを表現しようとする、ということが、『自分の存在を肯定できるような』写真として受け止められる可能性を、少しでも高めていけることであるのではないでしょうか。


この写真の男の子のことは、1歳の時から知っていました。
babyの頃から知っていて、毎年撮影をさせてもらっているからこそ、比較できる成長による変化と、変わらない部分とを、彼の魅力として写真の中で表現していこうと試みます。
カウンセリングの際のコーディネートのご希望は、『可愛い感じで』だったそうです。
5歳の七五三を迎えた彼でしたが、着物に怯むことなく無邪気で、やんちゃで、むしろちょっとふざけ気味なその姿は、天真爛漫で愛おしい男の子。初めて会った頃から変わらない、ふっくらしたほっぺたは、4年の年月を経てもあの日のbabyの名残を感じさせてくれる、彼の『可愛い』特徴でした。
その特徴を、敢えて全く違うイメージで写真に残したくなったのは、着物から着替えて2階に上がった時に差し込んでいた『光』に誘われたから、でした。
よく晴れた5月の午後、青葉店のメインルームに燦々と差し込む光は、窓を開けることで強く真っ直ぐ、青葉店の床に落ちました。通常は、青葉店の曇り硝子の窓で拡散される光ですが、今回は強くて硬い、エッジを描ける程の光を使います。
強くて硬い光は、コントラストの効いたモノクロームで構成することで、その存在感が際立ちます。黒から白への階調が濃く表れ、ちょっと硬派な、ハードボイルドな印象を生みました。
しかし、そこにいるのは『硬派でハードボイルド』とは少々ギャップのある、愛らしい彼の姿。それこそ、上から俯瞰で撮ることで、その特徴であるふっくらしたほっぺたのラインがよくわかります。しかし、だからこそ、この世界観において彼の存在感は強調されました。
直線的な影を描く硬くて強い光に対し、彼の存在は有機的な曲線で浮かび上がります。強い光をそのまま直接彼に当てるのではなく、床に反射した光が彼の特徴である柔らかな曲線をなぞるように調整することで、愛らしい丸みと強い光が混ざり合い、違和感のない程度にまでまとまります。
彼に持ってもらった、古くて角ばった無骨なカメラは、彼の興味関心を惹きつつその世界観を媒介する役割を担いました。例えば彼が手に持つものが、お花やフルーツのおもちゃといったものであったとしたら、この1枚の構成は一気にバランスを崩します。
うつ伏せで手元に集中する、その仕種自体は、幼い男の子によく見られる特徴でもあります。その『男の子らしさ』と、彼の幼さ、愛らしさを、ちょっと硬派な構成の中で違和感なく、効果的な対比として成立するように、光の効果を狙いました。

無邪気で天真爛漫な、可愛い男の子。その笑顔は勿論素敵ですが、敢えてちょっとだけ、集中した時に見せる男の子のかっこよさ、を、硬くて強い光は演出してくれました。
写真を見たそのひとは、そのひとを大切に想うひとたちは、モニターに映し出されたこの写真を見て思わず声を上げてくれました。
彼本人に、
「どうだい、かっこいいんじゃないかい?」と聞いたら、まん丸いほっぺたをふくふくにさせながら、笑っていました。


見慣れた表情を、変わらない特徴を、いつもとはちょっと違う表現で、より印象的に残すこと。
写真を見たそのひとが、自分の新しい魅力に気付けるように。その存在を、肯定できるように。

写真は、そういうことができると信じています。
そういうことができる写真を残せる撮影者である為に、今また改めて学び直すこと、新しく挑んでいくべきことがたくさんあって、
それがとても、とても幸せなことだと、思っています。



 

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