Photogenic


横浜青葉店
scrollable

You,

投稿日:2019/5/20

2205 3

 

Photo&Write by Reiri Kuroki

Coordi by Natsuko Takagawa

 

@Yokohama Aoba

 

 

 

漫画みたいな大粒の涙を零して、あなたは泣く。

 

その手に握りしめた赤ちゃんせんべいを噛みしめながら

(ちなみに右手にもしっかりせんべいを握りしめながら)、

長い睫毛を濡らして、泣く。

 

彼女の涙腺を刺激する、その感情が何なのか、本当のところはわからないので飽くまでも想像ではあるのだけど、まあ要は単純に、眠い。

しかし、赤ちゃんにとっては、眠気というのはきっと得体の知れない不自由で、自分はもっとしたいことがあるのに身体がついてこないというような、そういう理不尽なことなんでしょう。

彼女にとって儘ならないそんな理不尽は、赤ちゃんせんべいでごまかすには限界を迎えつつあって、やがて、涙になって、溢れ出す。

 

 

それは、撮影者にとってはちょっとぐっとくるくらいの、『あなた』が顕れた瞬間、でした。

ニコニコ笑っているBabyの写真の可愛さとはまた違う、『あなた』というひとの剥き出しの感情が、内面が、ごく素直に表層に顕れた瞬間。

 

その瞬間を、印象的に焼き付けるような写真を求めて、シャッターを切りました。

 

 

 

Babyの撮影において、『Babyらしさ』や『可愛さ』は重要です。

しかし、それは飽くまでも『Baby』という一般的な、時期的な要素でもあります。

その中から、『あなたらしさ』を区別して抽出するには、集中して観察し続けなければなりません。

『可愛さ』はわかりやすく、ともすれば目を奪われがちですが(そして勿論、そういう写真もたくさん撮りますが)、それでも撮影者として、私が最後に求めるところは『あなたらしさ』を抽出した写真です。

 

赤ちゃんのプクプクした体つきや、よちよちとした仕草は誰もが可愛いと思うでしょう。

Babyという限られた時期、あっという間に過ぎ去ってしまう『赤ちゃん』という時期の特徴を最大限に可愛く表現した写真は、残しておくべき大切な記録になります。

しかしそれは、例えば『ドレス姿の女の子を、お姫様みたいに撮る』という域を出ない写真と同様であるのかも知れません。

私たちが撮るべき写真は、『ドレスを着たその子自身が、どんな表情を浮かべているのか』にフォーカスしたものでありたい。

『ドレスを着た女の子』という代名詞から紡がれる『お姫様みたいに』という汎用的なイメージではなく、『あなた』というひとがドレスを着て、『お姫様みたい』と喜ぶ、そのくすぐったそうな笑顔を最大限印象的に抽出すること。

そういう写真が、『あなたらしさ』を表わしたと言える写真になり得ます。

だからこそ、Babyの『可愛さ』だけに頼って撮影を進めてしまってはいけないのではないでしょうか。

可愛いBabyを可愛く撮る、それは汎用的な写真としての前提に過ぎず、その『可愛さ』の中にある『あなたらしさ』を探して、絶えず集中し続けることができるかどうかが、Baby撮影の要になります。

 

 

彼女の場合。

来店時は兄たちのテンションにつられてか、ママさんパパさんも驚く機動力を見せていたのですが、撮影が始まると徐々にそのエネルギーは落ち着いていきました。

彼女の兄たちもまた、Babyの頃から撮影させてもらっています。しかし、彼らもまた一般的な1歳の概念を丸ごと覆す超機動力を誇るBabyだったことが記憶に鮮烈で、それこそ彼ららしい写真をたくさん、本当にたくさん撮らせてもらってきました。

詳しくは→ Butterfly31 たからもの

そんな家族の歴史の中で、末っ子の彼女自身は極めて一般的な1歳らしい反応を見せていて、逆に兄たちの歴史との対比を生みました。笑

やがて、お昼寝の足りていない彼女はぐずる様子を見せ始め、ママさんから離れなくなっていきます。

コーディネーターのシャボン玉も見向きもせず、ママさんを追って移動を繰り返す彼女に与えられたのは赤ちゃんせんべい。

最初こそバリバリすごい勢いで食べていたのですが、やがて両手にしっかりせんべいを握りしめたまま、みるみる眉毛が下がっていき、耳と鼻が紅潮していく…………。

あ、泣く、と思ったその時、彼女の目頭から溢れた大粒の涙は、表面張力によってその場に一瞬留まりました。

その涙があまりに綺麗で、はっとしたその次の瞬間、彼女は本当に悔しそうに、赤ちゃんせんべいを噛みしめていました。

 

そんなに全力で、そんなに大粒の涙を溜めて、そんなに悔しそうにせんべいを噛み締める、今の『あなた』。

赤ちゃんらしさ、の中にある、『あなた』自身の感情が発現したその瞬間は、何だかちょっとユーモラスで、愛おしい瞬間でした。

 

一抹の申し訳なさを感じながらも、少し遠巻きに見守っていた距離感をぐんと踏み込んで、望遠レンズの効果を維持したまま近付けるギリギリまで近付きます。

その大粒の涙と、噛みしめる口許にフォーカスしたクローズアップ。望遠レンズのボケ味の効果は、見せたいところに集中させる柔らかな階調を生みました。

Babyの撮影は、瞬発力の勝負です。言葉による指示はできず、「もう1回!」はありません。その瞬間を、確実に抑える為に、瞬時にフレーミングを判断します。やや上からの俯瞰で涙と口許の距離感を詰めて、前髪ギリギリのラインでのトリミング。画面左側をほぼ顔で満たすことにより、集中を分散する余計な余白は無くしました。

 

写真の中が、『あなた』の強い印象で満ちていく、『あなた』を表した写真。

私が最後に求めるところは、ここです。

集中し続けて、頭の中がどれだけ消耗していったとしても、こういう1枚を抑えることができたなら何もかもが帳消しになってしまうような、病み付きな1枚。

 

そんな写真だからこそ、この1枚は、私のPhotogenicです。

あなたの為の、あなたの写真。

こういう1枚の為に、私はカメラを持ち続けています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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