この色使い、良いな。
そう、瞬間的に思って、改めて見てみて、それが『光』の色だと気付く。
こういう光の、色の、使い方もあるのかと、新鮮な気持ちになった写真。

私たちは、基本的に毎日同じ空間で撮影を行う。
部屋の造りや窓の位置、照明の位置はいつも同じだ。季節や時間によって、空間に差し込む自然光に多少の変化は見られるが、大きな環境の変化は日常的にあるものではない。
だからこそ、写真大辞典にもあるように、『見慣れた場所を見慣れたように見ない』ことを意識していかなければ、ただ、無意識に同じような写真を量産していくことに繋がる。それは、決して良いことではない。
私たちは毎日同じ環境下で撮影をしているが、被写体はいつも違う「ひと」であるからだ。
環境は、（基本的に）変わらない。しかし、撮るべき被写体は変わる。そのひとの為に、その表現の為に、条件を変えていくことは、できる。


ライフスタジオのインテリアには、各所に照明が組み込まれている。
その照明は、主に蛍光灯と白熱電球の２種類。白熱電球はオレンジ色の、温かみのある光が特徴だ。
この写真は、白熱電球と蛍光灯、それぞれの光が、１枚の写真の中で明確に役割を分けて存在することで、空間の奥行と被写体の存在感を際立たせることに成功している。
印象的なのは、背景に使われた白熱電球の光だ。
このインテリアのいちばん奥の壁面にも、２種類の照明が組み込まれているが、白熱電球だけを点けて、背景は温かみのあるオレンジ色の光で照らされた。
それに対し、被写体に当たるメインライトは、蛍光灯の白い光。
被写体は10歳の女の子。この時期の子どもたちに共通して見られる、健康的に日焼けした肌は、白熱電球の影響を受けるとより浅黒く見えてしまうこともある。
被写体の座る位置に合わせて、壁面に設置されている蛍光灯の一部のみを点ける。白い光は、彼女の肌に適した露出を確保した。
鼻に皺が寄る程、あどけなく無邪気に、くしゃっと笑うその笑顔に集中できる光のバランス。
こうして見ると、実際の構成はシンプルだ。被写体に当たるメインライト１灯、背景を照らすライト１灯。基本は、それだけ。
だが、被写体に当たる光はポイントを絞って、彼女がいる、そこにきちんと合わせている。実際のインテリアには、写真の左側に当たる壁面の手前から奥まで照明が組み込まれているのだが、そこは点けていない。
むやみやたらと照明を点けるのは、悪手だ。側面の照明を全て点ければ、奥の白熱電球の光の階調が失われる。
この写真の中でいちばん奥に位置するところに、白熱電球の発する柔らかいオレンジ色の光があり、それは被写体までの距離があるからこそ、空間的な奥行を感じさせる階調を見せている。
奥のオレンジ色の光と、手前の白い光の対比。全体を柔らかく照らす白熱電球の光と、被写体を美しく浮かび上がらせる蛍光灯の光。その露出比を、丁寧に構成している。
もうひとつ、アクセントとして印象深いのが『青』だ。
写真の右側から弱く落ちる青い光は、窓から差し込む空の色が反映されたものだ。
午後４時を過ぎて、太陽は西に回り、このインテリアの窓からは直射日光は入らない。だが、日没の近付く空の色が反映された外光が窓を通してほんの少し、影響した。それは被写体のみならず、『空間』全体を繋ぐグラデーションの印象を作る。
空の色を反映した淡い青から、オレンジ色の光のグラデーション。その中で、際立つ存在感を放つ被写体を照らす、キーライトとしての白い光。

構成はシンプルだ。シンプルだが、要所要所に意図的な引き算が見て取れる。
以前、五明さんが撮った写真を分析した時も、そういえばこのインテリアでの写真だった。その時の写真と今回の写真はまるで違う。
インテリアという環境は、変わらない。しかし、目の前のそれを『見慣れたようには見ない』という条件を作ることで、全く新しい表現を手に入れることができる。

光の色を、丁寧に使い分けることで、写真の印象をがらりと変えた。

与えられた環境に依存しない、能動的な撮影者が見せてくれる、新しい世界だ。