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青山店
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【写真分析】ねた。ねた、ねた。

投稿日:2021/11/20

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Aoyama

Photo;gomei

Codi:Nishi

 

「ぐっすりか?」

「ぐっすり寝ています」

その時、私たちは廊下の端で、世界一ミニマムな会議をしていた。

生後3か月の撮影でご来店頂いた彼女は撮影の序盤から泣き顔になることも多かった。

その都度ミニマムな会議を開催する。

その際私は撮影者であるので、現場の決定権を持っている。

さらに西より在籍年数が長いため私が状況把握をしながら指示をすることは、ごく自然なことだ。

「あの泣き方はおそらく2つの原因のどちらかだ。1つはお腹がすいて泣いている。もう一つは眠い。きっと泣き方からしてお腹がすいているのだろう。ママに授乳をお願いしよう」

「さっき飲ませて、もういらないってなっていました」

「そうか」

10分後

「寝ました」

「そうか」


この10分間で我々撮影者は色んな想定をして対応しなければならない。

単純な休憩時間なんてものは無いのだ。
例えば、このまま寝ることなく泣き続けていたらどうするか。

はたまた泣き止みはするが、抱っこから降りることが出来ない場合もあるだろう。

いかなる状況でも、これまでの経験からその場を凌ぎ、撮影を敢行することはできるだろう。

ただ良いカメラマンであるには、本当のニーズはなんであるのか、ここに対する価値提供ができるかどうかで、柔軟な対応をすることが大切なスキルなのだと考える。

前途した「その場を凌ぐ」ということは、写真の姿形、外見を綺麗に撮るだけのことを指すこととしてみる。

抱っこから降りなくても、抱っこされていないように撮ることが出来る。
そんな感じの事だ。

勿論大切なスキルであるが、一旦そのことは置いといて、本当に欲しい本能にささるニーズを探してみる。

 

写真というのは当たり前だが、目に見える要素と見えない要素の2つで構成されている。

目に見えない要素とは、思い出や想いなどの抽象的な概念を指すものだ。

綺麗な写真残したいというのは当たり前に大切なニーズであるが、本当にそれが100%純度の高いものなのかというと私はそうではないと、この撮影で感じたわけだ。

そんな時、今週家族で行ったアンパンマンミュージアムの思い出を思い出す。
どのアンパンマンミュージアムにも、「にこにこ写真館」という有料フォトブースが設けられており、子供の対応スキルが高いスタッフがアンパンマンのセットの中で写真を撮ってくれるのだ。

順番待ちをしている際は前の組の撮影を見るわけだが、笑顔の子もいれば真顔の子もいる。

そして我が家は担当のお姉さんの敏腕さが光り、笑顔の写真が撮れたのだ。

嬉しかった。

 

この写真を見る度に私の「本当のニーズは何か」と自問自答をする。

勿論楽しそうな笑顔の写真は有難く胸が高鳴るものであるが、たとえ真顔でも買ったろうし、目線が外れてた写真を今回は楽しそうだったので購入した。

ここで相違が出てくるのが姿形の写真は満足度を上げるものであるが、それだけでは感動まではたどり着けない可能性があること。

つまりその感動できるポイントこそが、「本当のニーズ」なのだ。

私はこの体験をもとにこちらのお客様のニーズはこうだと仮定した。

「楽しい思い出が詰まった写真こそが人を豊かにさせる写真だ」と。


さて時は戻りミニマム会議。

「寝ました」

「そうか」

一拍開けゆっくり口を開く。

「このままモニタールームで撮影だ」

 

生後幼いお子様の睡眠は些細な物音でも起きてしまうほど、繊細なものだ。

ゆっくりとふすまを開け、足音に気を付ける。

青山店のモニタールームは、撮影用の部屋ではないので通常の家と同じ環境だ。

光りは天井に1つついている普通のフラットな電気一灯。

布団の上に寝ているお子様。

部屋の広さは6畳程度、なので撮影するには引き尻はない。

そう、きつい環境だ。

これは正直キツイぞ。

もう一人の自分に話しかける。

どうする自分よ、寝顔ばかり撮っても仕方がないぞ。

その時無理やりポジティブな自分が目を覚ます。

「自分よ。部屋が狭いのではない、近くに居られることだからこそ気づけるものがあるのです。さあ、探してごらんなさい」と私にささやく。

 

物音を立てられない、そして打開策が見つかりづらい状況。

この状況をこれからミッションインポッシブルと呼ぶ。

ミッションインポッシブルの私は主役。

確か名前はイーグル。

うろ覚えなので、私はトム・クルーズだと言い聞かす。

 

近くに居て、見てみるとうまく使えそうなポイントに気が付いた。

寝ているからこそ、じっくりとパーツ写真を撮れる環境なのだ。

そして、現在の立ち位置から足は最高のフォトポイントだ。

そうと決まれば早い、彼女の足と、ご両親の指輪を借りて抽象的な家族写真を撮ることに。

プランはこうだ。

寝ているうちに、右足親指と人差し指に2つのリングを挟み撮影すること。

最大の難関は、起こさずに指輪を挟めるかどうかだ。

 

ご両親、スタッフ、全員に緊張が走る。

さあ、指輪を挟むぞ。

ゆっくり、亀より遅いスピードで、指輪を指に近づける。

指輪と指が接触した瞬間、彼女の足は大きく動き出し指輪は吹っ飛ばされた。

その瞬間、私はトム・クルーズではなく五明に戻り、ご両親を見る。

私の情けない表情とは打って変わって、これまで緊張していた二人が笑っている。

そのハプニングをきっかけに一気にこの空間はハピネスな状況へと生まれ変わる。

だから私は、諦めて指輪を横に置いた。

一旦安全な撮影を。

何故ならすでに五明だから。


写真のイメージは「2人の愛の結晶」だ。

2人のこれまでの恋人という関係の時間と、現在と未来の両親としての関係の時間を同時に感じることのできるイメージだ。

その様に設定すると、抽象化されたとしても主役は親になる。

そこで指輪にのみピントが合い、奥に子供の足がボケている構図にすることにした。

これには私なりのメッセージがあり、是非お子様が大きくなったら同じ写真を撮って欲しいと思う。

すると今回の写真の意味も時間とともに、変化をしていると感じてもらえるからだ。

さて最大の問題が残っている。

それは光だ。天井からの蛍光灯のみだと全体に均一の強さで光が当たるわけなので、フラットな印象の写真になるだろう。

ここで秘密兵器iPhoneの登場だ。

カメラの電気をつけ、西に斜め後ろから当ててもらうと、半逆光になり陰影が付く。

何よりiPhoneのライトは強く小さな光なので、影を作るにはもってこいだ。

写真内に明るい部分と、暗い部分を作ることができ、写真にドラマ性を付与できたと思う。


最後に撮影が終わると、大人たちは妙な一体感、そして達成感に包まれた。

まるでそれはチームのように。

きっとこれ以外の写真を見ても、この出来事を思い出し、大変だったけども楽しい撮影として記憶が都度よみがえってくれることを期待する。

共に作り、悩み、撮影者と消費者を変えた瞬間が入っている写真こそが、真のニーズだと感じた撮影だった。

提供できたかどうかは立証できないが、私の心的な距離感としては、以前よりそのニーズに近づけているのかもしれないと考えます。

いつでもまっすぐ向き合うことを、考え、反省し、今日も寝ます。

 

 

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