Photo&Write by Reiri Kuroki

Coordi by Chiho Morita

 

@AOYAMA

 

 

 

先日、他店舗のカメラマンに、

「写真を撮る時に何を大切にして撮ってますか？」と、訊かれた。

 

シンプルなその質問は、自分が何度も考えたり話したり、文章にしたりしてきたものを、また改めて見直させてくれる。

何を大切に撮るのか、何を撮りたいのか、何をしたいのか、何の為なのか

今までたくさん言葉にしてきたそれを、写真を学びに来た若いカメラマンの前でまた考えて、話す時、とても真摯な気持ちになる。自分がそれをちゃんと体現できているかは、こういう時に表れると思う。

 

 

自分勝手に写真を楽しんでいた時期もあったし、被写体に振り回されているだけの時もあった。良い写真とは何か悩み、撮れないものを撮りたいと思ったりもしたし、深い考察をしないで真似ばかりしていた時期もあった。先輩方の背中を見ながら、人が羨ましかったり、誰かの後に入る撮影にプレッシャーを感じたりもした。

そんなしょうもない日々も、不器用な自分には多分必要だった。幸いなことに撮影は毎日あって、毎回上手くいかないことや得るものがあって、そして同じように悩んだり挑戦したりしている仲間たちがいたから、繰り返し刺激をもらいながら、潔い諦めが必要なこともたくさんあったし、そういうものを削ぎ落としながら、自分のことを知りながら、だんだん自由になっていった。

 

私は、目の前の『あなた』の為になるような写真を残したい。

私にとって、多分それがとても大切なことで、『あなた』が自分の新たな魅力に気付いてくれるような、あるいは『あなた』を大切に想う誰かが思わず口元を綻ばせてしまうような、そんな写真を撮りたい。

私にとって、写真を撮るとはそういうこと。その為に、カメラを持っています。

 

 

最近は本当に、シャッターを切るタイミングが変わってきた。

彼との撮影は本当に良い時間で、私たち撮影者の存在は彼にしっかり認識され、いち個人として会話しながら撮影をしていく関係性は心地良かった。少しシャイな彼はちょっと気恥ずかしそうにはするけど、ポーズの指示はそつなくこなしてくれて、その都度私たちは黄色い歓声をあげてますます彼を照れさせた。

そんな撮影だったから、撮影者の意図は割と反映できていたと思う。ただ、撮影者の干渉の影響が強いな、とも思っていた。彼自身の美しさを引き出したいな、と思った時、撮影者(わたし)の影響はちょっと直接的過ぎて、彼に『やらせ過ぎている』ように思えて、それはちょっと彼を不自由にさせてしまっているのかな、と思った。

だから、彼が撮影者を忘れる時を、待っていた。

この瞬間は、指示と指示の合間。こちらが投げかけたことを実行しようとして、ふと自分の手元に集中が向いた、その一瞬の斜め後ろからの横顔は、私の干渉から離れたように見えた。

そっちに行って、とお願いしたのはこちらで、それに従って廊下の端に向かったその時に、手元のカメラを彼は気にした。歩いている途中の、移動しかけた重心と動きの余韻を残すコートの裾が、ほんのわずかな動きの中でとても効果的に働いた。

作為的な誘導の中で、ふと、そのひとの本当に自然な姿が垣間見える瞬間がある。昔は、こういう瞬間へのアンテナは鈍くて、自分が投げかけたものがどれだけ形になったか、ということばかりに反応してシャッターを切っていた。それも悪くはないが、『あなた』という存在からふと自然に表れるものが、ものすごく『あなた』というひとの美しさだったりするものだから、そういうことに気付いてしまったこちらとしては、撮影のイニシアチブを握って先導しつつも『あなた』が『あなたらしさ』を発揮する余地を作ることに必死だったりする。

2シーン分の関わりを経て、3シーン目で、ようやくそういう瞬間が訪れる。

 

 

写真を撮る時に、何を大切にしているか。

自分はそれを、ちゃんと体現できているのか。

人から見た感じはわからないけれど、少なくとも私自身は、いつもそれに必死に向き合っているつもりだ。人より不器用で歩みの遅い私が、しょうもない日々を経て学んだり諦めたりしながら、自分の中の芯にしてきたもの。

偉そうに語れるものでもないのだけど(笑)、自分の写真の強みとなる部分は、そこなのだと思う。