Photogenic
横浜青葉店
美妙巧緻のミニマリスト
投稿日:2021/7/20     更新日:2021/7/30
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木綿豆腐の作り方をご存知ですか?
その昔、自分は絹豆腐のような人間でした。
それはもちろん、肌にもっとツヤがあったという意味でもありますが
いざ料理はおろか、わずかな振動や刺激でも簡単に崩れてしまう、やわな男だったのです。
どのみち豆腐メンタルなら、木綿豆腐の方が良い。
ちょっとやそっとではへこたれない、どんな料理にも使える応用性
木綿豆腐こそが等身大の目標である、と。私はこの日から目指す事にしました。
木綿豆腐の作り方はシンプルです。
それは一度できた絹豆腐を、まず崩すところから始まります。
完膚なきまでに、跡形もなく。原型も忘れてしまうほど崩れた豆腐に圧力をかけて余計な水分を抜き、再度ニガリを加えて固める。
そこに絹豆腐だった頃の若々しさはもうありません。
しかし煮ても焼いても崩れない真の強さが出来上がります。
人間も同じです。
進化する為には、一度崩さなくてはなりません。
青葉店にやってきて早3ヶ月。
青葉店の写真とは何か?
日々研究していますが、それを構成する要素はかなり複雑で、一概に定義するのは困難です。
それはこれまでに在籍していた「人」によっても異なるものであり、
その時々の社会の流行や店舗としての取り組みにも左右されるものでもあるからです。
しかしそれでも、いくつかの「全体的な傾向」が見えてきます。
青葉のスタイルを身に付けていく為、今日はその一つについて分析してみたいと思います。
青葉店の創立から現在までの写真を全体的に俯瞰してみてその公約数を更に因数分解した時に見えてくる要素。
その一つが、徹底された「ミニマリズム」です。
青葉店のインテリアが他店と比べ全体的に大きいという事が関係しているのでしょう。
もし小ぶりなインテリアや小物は必然的に賑やかないし煩雑な印象を与えますが、
大きめのインテリアはその真逆で、人物撮影の背景とした場合に比較的シンプルな印象となりやすいです。
撮り方を間違えれば寂しい印象を与えてしまいますが、光や色遣いを意識的に使う事で非常に洗練された美を演出しやすい空間です。
そしてそれを、これまで撮影に入られてきた方々も意識的に利用している印象です。
写真には引き算と足し算がありますが、青葉店では引き算、特にレンズの望遠域を多用した切り取りのスタイルで画面を整理しています。
逆に、キャンバスに要素をどんどん足していくような工程はあまり感じ取れません。
また多くのミニマルフォトの特徴がそうであるように
青葉店の写真も、光をしっかりと捉えている事で完成されている事は共通です。
スタジオが広いので窓によって、あるいは時間帯によって、入ってくる光の性質が全く異なる上、広い分入ってきた光がバウンスする先が遠いため、回りにくい構造となっています。
よって光の軌跡がしっかりと写真に残るのでごまかしが効かず、写真としての精度を上げる為にはしっかりと計算して光を使う必要があり、生まれたものであると感じました。
青葉店の研究はまだまだ続きますが、今回は一旦ここで留め、これまでの分析で抽出した要素の一つを自分の撮影にも適用してみたいと思います。
これらは、自分の写真における従来の特徴であった「マキシマリズム」とは正反対のものである為(*「美妙巧緻のマキシマリスト」参照)、慎重に、そして能動的に取り組む必要があります。
今、これまで築いてきたスタイルを一度崩し、もう一度見つめ直す時が来ていました。
◆
写真分析
<色>
まず初めに、この写真を構成する色を決めます。
今回はテーマに沿ってシンプルさを極めるため、「白」と「赤」の2色のみで進めます。
まず赤
赤ちゃんというのは体が赤いから赤ちゃんなんだなあと改めて感じさせられる一枚ですね。
素材の良さを活かしたいので、肌色を失わないよう注意しながらライティングを組みます。
そして白
そんな赤ちゃんを囲む布の数々。
ただ白いだけでは画面が寂しい印象を与えてしまうので、光の当て方で濃淡を出して画面を彩っていきます。
まずは赤ちゃんの着ているベビードレス。
この白が一番目立つことで、赤ちゃんへの視線誘導を狙います。
窓から入る光を観察し、ドレスの端に直接光が当たるよう位置を調整します。
一部については白飛びを許容し、立体感を出していきます。
次に背景。
赤ちゃんを撮るときは逆光で背景を飛ばしがちですが、これを一度見直します。
赤ちゃんの後方に白い布を掛けますが、窓や赤ちゃんとの距離を調整する事でくすんだグレーに留まらせます。
ベビードレスよりも数段落とした白とする事で、低コントラストで柔らかい印象が出ました。
最後に、赤ちゃんに寝てもらう布。
これは赤ちゃんとの距離が近すぎる為、光を使った濃淡の調整はできません。
よって、初めからやや濃いめの布を選ぶ事でグレーバランスを調整します。
ただし小物を使わない分、布の質感をしっかり出す演出を忘れません。
<構図>
クロス構図を取っています。
クッションの丸みやドレスの膨らみ、布の折り返しによって、画面内に2本の直線が横断しています。
そしてその直線の交差ポイントに赤ちゃんの顔が重なる事で赤ちゃんの顔が一層引き立つよう画面を整理します。
かなりサブミリナル的な試みなので、ここに書く事を迷いましたが…。
また今回のテーマに沿って、レンズは望遠域を使います。
普段私が頻用する広角-標準よりも画面整理がしやすい為です。
ミニマルフォトが手抜きフォトではなく意図した引き算として成り立つよう質感の異なる布をそれぞれ使いましたが、
それらが主張しすぎないようF2.8まで開けてぼかす事で、印象を調整します。
◆
現代では化学調味料を頻用したような濃いめの味の写真が流行っています。
低コントラストのフィルム風レタッチや、空や緑をくっきり鮮やかに写す新海誠風レタッチなど。
Instagramではこうした高カロリーな写真がかなり人気で、一時期は自分も意欲的に取り組んでいました。
(正直言うとそっちの方が沢山いいねがつくので、撮る側も見る側も中毒性があるのです。)
世の中に写真が溢れてしまった故に、スワイプ中に一瞬しか視界に写らない写真の中でも目を引く写真ではないと「良い」と思ってもらいづらくなってしまってきています。
それ故に世の中の写真の味はどんどん濃くなり、繊細な味の料理はただただ「味が薄い」という評価となり、見る者の目に留まりにくいのが現状です。
しかし、お客様の手に渡る写真は違います。
日々スワイプと共に大量消費されていく写真とは違い、その人だけのオンリーワンの価値基準に止まるものです。
だからこそ、じっくり見て、良さを感じ取ってもらえるような写真
化学調味料は使わず、なんなら塩だけで彩るような料理をこれからも追求していきます。
Photo :Hisho Morohoshi
Coordi:Takuma Oto
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