Photogenic
横浜青葉店
process,
投稿日:2019/2/20
1928 1

Photo&Write by Reiri Kuroki
Coordi by Sonoko Sakai
@Yokohama Aoba
少し、違う見方をしなければならない。
ここ最近、強く思っていたことです。
横浜青葉店で撮影をするようになってから、2年以上が経ちました。
ライフスタジオのカメラマンになってからは、8年目。
積み重ねられた経験は、『安定』という皮を被った『惰性』に収束しつつあったのかも知れません。
『安定』、そのものは大切です。そこまでの数々の試行錯誤がようやく結実した、それは価値のあるものであるでしょう。
しかし、それは『安定するまでの過程を踏んだ』からこそ価値があるのであって、その後の実践において安易に結果物だけを濫用することは、『過程を踏むことを怠る惰性』です。
私たちが撮影する対象は、『ひと』です。
その人の人生の記録として、その人の美しさを写真に残すことが、私たちライフスタジオの命題です。
この世には、誰一人として同じ人はいません。『ひと』を撮影の対象とした時、その存在の唯一無二であるという特殊性を看過することはできません。
なのに、ともすると同じ場所で、同じように撮ってしまう、ということが起こります。
それは、試行錯誤しながら辿り着いた結果物を、過程を踏まずに一足飛びで濫用している、と言えます。
以前撮られた写真がそこに見えている。だから、そこに被写体を『置く』。
それは、そのひとの為の写真には、なり得ません。
だからと言って、必ずしも『撮られたことのないもの』が良いという訳でもないのです。
そもそも、Openから6年目を迎えた横浜青葉店で、撮られたことのない撮影空間など存在しません。
建造物としての構造や条件は変えられないし、無理に斬新さを求めた奇を衒う写真は、『その人の美しさを写真に残す』という命題から逸脱してしまう場合もあります。自然光をメインの光源としたライフスタジオでの撮影において、撮影を行うポイントが一定の範囲内で限られてくることは、必然です。
大切なのは、その限られた条件の中で、私たちが撮る写真は常に、被写体であるその『ひと』を起点に構成されなければならない、ということ。
『そのひとの為の写真』は、そのひとの為に構成される過程を踏んでから、残されるものであるのです。
『あなたの為の、あなたの写真を撮りたい』。それこそが、私が人の写真を撮る理由です。
その信念を反映した写真を残す為に、試行錯誤を繰り返します。
目の前の『あなた』に、真摯に向き合い、その存在を感じ、自分の中に落とし込みながら、『ライフスタジオ 』という条件の中で、最大限に『あなた』を表現する、その手段を、探します。
見慣れたこの場所だからこそ、『あなた』の為に、少し違う見方をしなければならないのです。
*
この時、私の目の前にいた『あなた』は、入学記念で来てくれた6歳の男の子でした。
挨拶すると、最初は照れてはにかんでいたものの、徐々に6歳らしいやんちゃさを発揮しながら、撮影を楽しんでくれる男の子。
入学記念のスーツと、習っているという空手の道着を持って来ていて、大きくなったらオリンピック選手になりたい、と言うものだから、てっきり空手で世界を目指すのかと思いきや、小学生になったらテニスを始めるからそれでオリンピックに出るんだ、と、夢を語ってくれました。
そんな彼の撮影で、私には幾つかの『少し違う見方』のきっかけがありました。
ひとつは、コーディネーターのnokoちゃんの存在です。
nokoちゃんは、ライフスタジオに入社して実はまだ半年も経っていませんが、持ち前のガッツと吸収力と勘の良さで、ぐんぐんと成長を遂げています。
勿論、彼女と撮影に入った回数は、まだ多くはありません。だからこそ、互いに予定調和的な部分がなく、撮影中のやり取りやアシスタントの仕方、コーディネートも含めて、いつもの場所でもちょっと違う、新鮮な相乗効果がありました。
それは、この2年間横浜青葉店が大切にしてきた『近すぎる写真館』としての空気感を、私とnokoちゃんが構成することにより生まれる、少しだけいつもと違う要素でした。
ふたつめは、『モノクロ』という視点です。
2月の横浜青葉店の写真主題として設定されていた、『モノクロ写真』。コントラストの強い、ハードな印象のモノクロ写真は自分の表現のひとつとして実装されていましたが、ダイレクトであるからこそ、安易に多用すべき表現ではありません。
主題を聞いた時、「淡いトーンのモノクロを撮ろう」と思ったのは、自分の写真で印象的に残る淡いトーンのモノクロ写真というレパートリーがなかったから、です。
強い光ではなく、濃い影ではなく、拡散した光の下で柔らかく淡い階調を描くモノクロ。それは、私がまだ描いたことのない世界でした。
そんな、『少し違う見方』のきっかけをもらいながら、彼の撮影は進みます。
3シーン目でスタジオの衣装を着た彼は、何だかすっかりこの空間に馴染んでいました。
肩の力が抜けて、楽しそうで、良い感じに『自分』が出ている、そんな状態だからこそ、違和感のない静かな写真も撮ることができます。
横浜青葉店の鉄板とも言えるインテリアで、それこそこれまで数々の写真を生み出してきた場所で、彼の為の構成を考えました。
動いてもらって、遊んでもらって、その中で瞬間に顕れる、その表情を引き立たせる、淡いトーンのモノクローム。
柔らかく拡がる光と、直線的なインテリアの中で、nokoちゃんのコーディネートは彼そのものの質感と相まったように、その存在感を演出してくれました。
実はもうひとつだけ、『少し違う見方』をする為の意識がありました。
それは、とあるカメラマンをイメージして、その人の視点を仮想すること。
その人の写真を、撮影をイメージしてみて、いつもの自分の視野に少し他人の要素を取り込んでみました。
勿論、飽くまでも仮想であり、その人のようには撮れません。真似をすることが目的ではないので、それで良いのです。ほんの少しだけ『あの人だったら、どうするか』という想定を組み込むことで、自分がいつもそのまま通してしまう過程の根拠を、丁寧に振り返るきっかけにします。
「私だったらこうだけど、あの人ならこう撮るのではないか」
「何故、そうしようとするのか」
「きっと、こういうポイントを見るのではないか」……
重要なのは、過程です。自分が写真を構成していく過程、そこに違う人間の思考のイメージを加えることで、選択肢が広がっていきます。
『いつものわたし』という惰性に『本当に、それで良いの?』と問いかけるきっかけ。それが、もう一度過程を見つめ直し、本当に、『あなたの為の写真』になっているかを、判断させてくれます。
淡いトーンのモノクロと、予定調和のないnokoちゃんと、そしてほんの少しだけ取り入れた他者の視点。
何よりも、起点となるのは被写体である彼の存在。
見慣れたこの場所を、少し違う見方で見せてくれた幾つかの要素によって、自分の中に蓄積されたものもまだまだ違う使い方ができそうです。
あなたの為の写真を残す場所。
ライフスタジオで、それを体現する撮影者で在る為の努力を重ねていきたいと思っています。
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