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越谷店
背中越しに耳で聞く映画
投稿日:2012/8/22
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娘と東京まで知人を送りにドライブをした。
帰りは夜の9時を過ぎていた。3歳の娘はラーメンが食べたいと言った。
娘と二人で国道沿いの中華料理屋に入った。
店の中は夜の9時を過ぎているのに受付で名前を書いて並ぶほど、賑わっていた。
お店の中は人で溢れてとても騒がしかった。
ようやく案内されて
席に着くと、私たちの後ろの席には老夫婦が座っていた。
老夫婦はご飯を食べて、お酒を飲んでいた。
おばあさんがひたすら一人でしゃべっていた。
自分がおじいさんに質問しているのに、自分の質問にも、全て自分で答えて。
おじいさんは寡黙で、また一言もしゃべらずにそれを聞いているのか、聞こえていないのかもわからない。最初は、うるさいおばあさんだなと思っていた私も次第に背中越しの、
老夫婦、いや、おばあさんの独り言に耳をすませて聞いていた。
おばあさんは、自分の生まれてから死ぬまでを全て話していたと思う。
私が覚えているだけの・・すべておばあさんのおじいさんに話していた言葉だ
「子供たちもみんな出ていったね。私たちは一生懸命育てたね」
「あの子たちは、私たちのことはよくわかっていないだろうね」
「でも感謝だよ」
「子供がいたんだもの」
「あの子達もみんな一人ずつ子供を産んで、孫を見せてくれたね」
「留学ってのはいいことなんだろうかね?違う国に行くって言われてもよくわからないね」
「あんたと私でお店で毎日よく働いたね」
「毎日一緒だったけど、よく働いた、楽しかったね」
「●●さんとこもお店していたね、今はもう亡くなったけど」
「私たちも見送る数が増えたね」
「あんた、もし戻れるとしたら何歳に戻りたい?」
「私は二十歳の頃に戻りたいよ」
「私もそこそこ綺麗だったよね」
「私の青春を返してほしいよ」
「いいや、返さなくていいんだよ」
「私が二十歳に戻ったら、あんた、また私のことを探してくれるかい?」
「二十歳に戻ったら、もう一回あんたと結婚したいよ」
「私はあんたと結婚して良かったよ」
「あんたのおかげでいい人生だったんだよ」
「わたし、酔っ払ってるね」
「酔っ払うとね、私は家を綺麗に掃除するんだよ」
「あんた朝はちゃんと食べてるのかい?」
「私は最近朝起きれなくなってしまったね」
「私も病気だね」
「あんたと同じガンだろうね」
「あんたの朝を作りたいんだけどね」
「できなくなってしまったね」
「朝はちゃんと食べてるのかね?」
「ちゃんと食べなきゃダメなんだ」
「お父さんお母さんを覚えてるかい?」
「二人とも誰に迷惑をかけるでもなく静かに亡くなられたね」
「あんたもお父さんお母さんの子だから、私たちもそれに似て、そういうふうに
ひっそりと死んでいけたらいいね」
「人生は不思議だね、死ぬけれどちっとも悲しくない」
「こうやってあんたとご飯食べてお酒を飲んでね」
「幸せなんよ」
「あんたはまったく心配せんでええ、私が最後まであんたのこと面倒見るから」
「私はあんたのことが好きだからね」
私は背中越しに・・・そのおばあさんの独り言を聞きながら・・・気づけば涙してしまった。
おばあさんの独特のしゃべるテンポと、
二人が本当に幸せに生きたんだということが
おばあさんの独り言だけでたくさん映画を見るようにイメージされた。
おばあさんはおそらく・・思い出しながら話しているようだけど・・・おそらく自分の話した内容はあまり覚えていないだろう。
思い出しながら忘れながら、忘れたくない二人の思い出を話している。
二人は私たちより先に席を立った。
会計の明細を見ておばあさんは言った
「おや、今日はいつもより一本少なくお酒を飲んだね。こりゃまた安く済んで儲けもんだ」
「また一緒にご飯食べにこようね」
娘は一人で黙々とラーメンを食べていたが、
私は背中ごしの老夫婦の会話におだやかな映画を見たようで・・・
店の中の喧騒の中、老夫婦が席を立つまで耳を済ませて目を閉じていた。
私が年を重ねて、妻から言われる台詞がそんな感謝の念だったら素晴らしいし、
私もどんな生き方がこの先出来るだろうかと考えていた。
3歳の娘は言った「パパ、なんで泣いてるの?」
私:「ん?泣いてないよ」笑
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