フォトジェニックPhotogenic

2017年9月のフォトジェニック

2017/10/15

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“Bon Voyage!”

No.24 Lifestudio Shonan
Photo by Hisho Morohoshi
Coordi by Mayuko Hara

 
Tennis shoes to soar in the sky, one slingshot to fell the dragon.
Surely marbles at the bottom of your pocket are the eyes of dragons.
 
空を駆けるためのテニスシューズ,ドラゴンを倒すためのパチンコひとつ
ポケットの底のビー玉はきっと,退治したドラゴンの目玉なんだろう

〜『The November Sanatorium』より〜

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台風一過の爽やかな秋晴れ。
そのファミリーと出会ったのは、光溢れる穏やかな昼下がりでした。

玄関には、両親の陰に隠れる今日の主役の幼い少女。そして隣でそれを優しく諭す頼もしい兄。
パパさんママさんはそんな二人を優しく見守る様子で、その後も少女が最近よく見ているというアニメの話で一緒に盛り上がったり、お気に入りの英語の歌をみんなで歌ったりして、スタジオが一体となって撮影が進んだのを覚えています。
 
私もそうだったのですが、兄弟において兄の方はその責任の多さもあってか、(家族からも、私達のような第三者からも)ついつい名前ではなく「お兄ちゃん」と呼ばれがちです。
今回の少年もやはり例外ではなく、妹の撮影を時には暖かくそして驚くほど綺麗な瞳で見守り、時にはカメラマンの私やコーディネーターのまゆちゃんと一緒に楽しく撮影を盛り上げてくれたりと、その「お兄ちゃん」ぶりをたくさん発揮してくれました。

撮影も中盤に差し掛かった頃、ふと私達が「お兄ちゃん」の存在にとても助けられている事に気が付きます。周りから自然と頼られている事に、本人が負担に感じている様子はありません。でもだからこそ、「お兄ちゃん」ではない本来の、そして固有の彼自身を知りたいという気持ちが次第に高まり、もっと深く彼と向き合ってみたいと私はこの時決めたのでした。


今回撮影の舞台にスクールバスを選んだのには、作戦がありました。
一つはシンプルに、彼が乗り物好きであるという事。
そしてもう一つは、少年という「時代」 、その生き物の本質にあります。

バスに乗り込むとまもなく、コーディネーターのまゆちゃんがその場から離れ、私と彼の二人きりの空間となりました。
予期せず彼が閉めてくれたドアはバスという密室空間を一切の喧騒から遮断し、僅かに開いた窓からはどこかのお家の金木犀の香りが流れてきます。
私は一旦カメラを置いてさっきまでの兄妹撮影の空気をリセットし、そして同じ男として彼と向き合った、彼自身にフォーカスを当てたお話をしてみます。初めは「少年」と「お店のお兄さん」だった関係が、みるみる少年同士のようになっていくのを感じました。

ほどなくして少年は堰を切ったように沢山の話をしてくれました。
将来の夢や、大好きな映画の話。
彼の愛する恐竜やサメ、宇宙や宝探しの冒険について。
家族みんなで行った旅行と、やっぱり、大切な妹。
そして今年の4月から入学した、小学校という新天地に対する希望や不安の数々。

そうだ、自分にもまったく同じ時期があったーー
恐竜の図鑑に齧り付いて、もう二度と見る事のできない世界に思いを馳せた日々。
天体望遠鏡を持っているとクラスのヒーロー。友達と代わり代わり覗いた。
裏の林をみんなで冒険して、秘密の地図を作った。
学校からの帰り道はいつだってサメの海だったし、箒を持てばメジャーリーガーになれた。
あの時の私達はたしかに、「大人」とは別の世界線を生きていた。

そしてー
私がLifestudioに入ったのも、同じ今年の4月。
道は違いますが、同じ日に同じく新しいスタートを切った者同士、お互い大きな大きな夢を持っています。
彼の前へ前へと進む姿から私もまた勇気をもらいます。

彼がキラキラとした瞳で沢山のお話をしてくれたその時その一瞬、
初めて、彼は「お兄ちゃん」ではなく一人の「少年」として私の前で笑い、
私はそれをつい見惚れそうになるのを堪えて、ようやくシャッターを切りました。

いくつかのキーワードが、その時たしかに、二人の世界線をつなげました。
永遠にも、ほんの一瞬にも感じる午後のひと時。
こうして二人の少年を乗せたバスという密室空間は、たちまち二人だけの秘密基地となっていったのでした。


 
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写真とその考察について

■構図
少年の表情をストレートに表現できるよう、主役は日の丸に配置。
少年の頭上にはイマジネーションの余裕を、目線の先には進むべき未来の空間を空けました。
 
■光
フロントガラスから差し込む光が、少年のイキイキとした表情を際立たせます。
木漏れ日の玉ボケが画面に爽やかな印象と奥行きを生み、被写体との間に挟んだ窓が午後の光を和らげました。
 
■色
紅潮した少年の表情、バスの車体の黄色、街路樹の緑、ミラーや窓ガラスのコーティングの青。
少年の夢中な空間を表現する沢山の色で画面が賑わう中、衣装の色がシンプルである事でバランスが取れています。
 
■moment
湘南店では現在『movement』と題して、如何に被写体の『動き』を収めるかを課題に奮闘しています。
今回は少年の内面にある心の『動き』を収める為、先述の空間作りと、それが肉体に顕在化された時に最も活きるタイミングを探す事に特に神経を注ぎました。

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湘南店の黄色いバスは、子供達の行きたいところへ、どこへでも連れて行ってくれます。
それは時には湘南の子供達の定番スポット「えのしま」であり、夏休みに新幹線で行った「おじいちゃんち」であり、「動物園」も「水族館」も、どんなに楽しい遊園地も、どんなに美味しいケーキ屋さんも、海の向こうの知らない国も、空の上の見た事のない世界だって、子供達のイマジネーションのままにほんの数秒で着いてしまいます。
運転手によって目的地は変わりますが、一つだけみんなに共通している行き先があります。
それは、他でもない彼ら自身の「未来」です。 



運転席の前。舵取りの仕方を教えようとする私に、彼は言います。
「大丈夫、一人で出来るよ!」
私は頷き、彼の横顔を見守ります。
「しゅっぱつ!」
昨夜の忘れ形見の一陣の風が街路樹を鳴らし、新たな門出を祝うように麗らかな陽の光が射し込んできました。
視界良好。燃料は満タン。
彼の冒険はまだ、始まったばかりなのです。

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