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京都桂店
Photo: RANGE for you,
投稿日:2019/8/31
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Tokorozawa Photo
Photographer: Satsuki Kudo / Coordinator: Masakuni Kikuchi
横写真は、私はあまり得意ではありません。
理由はいくつかあります。
ひとつは、人の形は縦型なので無理に違和感を出すことに抵抗があること。
ひとつは、私は感情的な写真が得意なので、どうしても被写体に近寄りたくなってしまうこと。
ひとつは、横写真は説明的でなくては違和感が出て、感情は関係なく整理した写真を目指さなければいけないこと。
特に三つ目の理由は、長く私の中で大きな勘違いを生んでいたかと思います。
それは、説明的で整理した論理的な写真と、感情的な写真が分離されていたという点です。
写真を撮るときに優先してしまうのは、被写体の生命力でした。
生命力とは、写真の四角の隅の中に被写体自身に息づくような感覚があるように見えるかどうかです。
実際に生命力を引き出すには撮影の過程が非常に重要です。
被写体とのやりとりや距離感、空気感や言葉。
それが写真の中にいる彼女にも大きく影響します。
今までの私はどうしても生命力に引っ張られてしまい、その生命力を強調するために、違和感を排除したいと考えて、縦写真が多かったように思います。
しかし、なぜ横写真でその生命力を強調するという選択肢を選ぼうとしなかったのか。
私の勘違いはそこにありました。
横写真は、世界観を統一することに核心はあります。
そもそも横写真自体が、その場所を表すものだからです。
風景写真に横写真が多いのは、風景をなるべく広く写すため、そして人間の視界に合わせているからです。
だから横写真が写す世界には、違和感があるなどもってのほか。
統一された世界観と、四隅をどこまで入れてどこで切るかという選択を求められます。
厳密なイメージと、バランス感覚、そして論理が重要です。
そこが甘いと写真も曖昧になります。
いわゆる誤魔化しがきかないというものです。
そこに、被写体の生命力を引き出す過程を加えるとどうでしょう。
インテリアを見ながら、被写体との関係の結び方も考えながら…、
光も見ながら、被写体のポージングも考えながら…、
どこからどこまで入れようか、被写体の場所はここでいいのか、
なんて言葉をかけたら瞬間的に生命力は出るのか…、
カメラマンをやっている人にはわかるかと思いますが、少し頭がパンクしそうですよね。
私は、少しパンク気味です。(笑)
だけれども、被写体の生命力を引き出すためのツールがこの世界観です。
逆に言えば、世界観が厳密に規定されれば、被写体の生命力に説得力が出ます。
素晴らしいフレーミングなら、被写体の生命力は引き立ちます。
私は小学生のころ、RPGの漫画を弟と作ってみようとしました。
それに必要なものは、物語と、世界観と、登場人物と、主人公の設定と、必殺技とか、過去とか未来とか、そういった構成要素でした。
写真も似ているなと思います。
写真には、まず登場人物である被写体が必要です。
そしてその人がいる一つの物語と、世界観が必要です。
そこから、光やフレーミング、レンズが決まります。
被写体を主役として、その物語と世界を決めていく過程は、
難しく考えれば難しいままですが、それが一連の過程として広い視点で捉えれば、やがてそれが自然になること今回がわかりました。
まず、主役は彼女。10歳の女の子。
彼女は強く、明るい性格ですが、お年頃であり、自らを良く見せたいと思う反面、それが気恥ずかしい年ごろでもあります。
私には、少し複雑そうに見える彼女の内面に惹かれました。ぶっきらぼうですが、人懐っこく、おしゃべりが好きで、美しい彼女自身の姿を自らでちゃんと認めたいけど、まだちゃんと認めてあげることができないでいる。
だからこそ、写真に写るときの彼女の表情は笑顔よりも強い眼差しで睨むようにカメラを見つめることが多かった。
それは私には今の彼女の生き生きとした内面を表しているように見え、そこから世界観を作っていこうと思いました。
世界を作る場所はガレージ。
薄暗く、クールで、少しやさぐれた雰囲気が漂う場所。
可愛いよりもかっこよく。
優しいよりも強く。
そんな眼差しをくれる今の彼女の魅力を引き出せる世界観を作れると思いました。
光はダウンライト。色味はモノクロで。
ハードでかっこよく。
世界と彼女がちゃんと溶け込むように。
この写真一枚で、彼女の魅力が伝わるように。
目線は力強く。
陰影は強く。
オースチンの車の迫力と、場所の描写を存分にするために、
そして天井の鉄骨のラインで奥行を強調するために、
レンズは広角24mm。
右にはスタンドライト、左にはギター。
そして、前ぼかしは敢えて入れません。
世界観を邪魔したくないので。
彼女がここにいる主人公であると、誰もがわかるように表現するために。
言葉はただシンプルに、
「私を、見て」
それだけでよかった。
こうして言葉にしてみると、カメラマンは見る観点が多く持つことが重要だとわかります。
また、被写体を最大限に表すために様々なイメージを持つ柔軟性と、
自分には常に知らないことだらけだという謙虚さが必要だということも身に沁みます。
写真を撮ることは、深く、広いです。
同時に様々な人と出会うという楽しさと、そこから生まれるケミストリーが、私の写真と私自身に大きな変化をもたらすものです。
そこに自分自身の固定概念を崩していくようなスパイスも必要ですね。
だから、まだまだ歩いていきましょう。
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