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人間の運命

投稿日:2013/1/12

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人間の運命

著者:五木寛之

Center:蒔田高徳

 図書館で返却コーナーにあるこの本を見た時、「運命」という言葉に反論したい自分がいた。運命という言葉から持つ印象は、自身の人生はまるで決められているかのように感じてしまうからである。今自分の人生の意味を作ろうとする私の意識に、運命とは矛盾を表してしまうようでもあり、しかしその「運命」の前についた「人間の」という言葉に、この本を取ることにした。

 

 著者は1932年に生まれ、生後まもなく家族と朝鮮にわたり47年に、平壌から日本に引き揚げた生い立ちを持つ。終戦とともに、平壌の街は凶暴なソ連兵であふれ、危険を避けるために、家族と多くの日本人は平壌を脱出しようと必死になっていた。終戦直後、徒歩で38度線を越え、南に向かい、日本へと渡る船を求めるがソ連兵と北朝鮮の保安隊によってすぐに捕まった。脱出に失敗した家族は平壌市内を流れる大同江のほとりの難民倉庫で二度目の冬を迎える。幼い頃育った環境の平壌は、著者にとっては少年時代を過ごしたまるで故郷のように思い出す情景であり、戦争という結果、時代に翻弄され生き方が一変することは自らが望んだことでもなく、それは時代の運命だったと著者は言う。

 

私には運命と言えるものは、まだ少ないし時代の悲劇に翻弄されたとまで言うものがない比較的、物があふれ、食べるものに困らず、平和な国に生きる「幸せな世代」に属する。多少の困難が今まであったとしても、過去の時代に生きた人達ほどのドラマを持ち合わせてはいない。

 

『宿業』と『運命』

「宿業」とは、その人間をとりまく過去の状況と行動のことだ。「運命」を決定づける、その根本そのもののひとつが、この「宿業」であるということができるかもしれない。自分自身の親を選択して生まれることはできない。日本人であること、その親が日本人であったこと、日本という国が戦争を選んだこと、そこに至るまでのすべてはつながっており、その「宿業」は著者が感じた「運命」につながっていく。

 

地獄のなかを生きる

 ナチス時代のアウシュビッツの収容所で生き抜いた人たちは、「アウシュビッツは地獄だった」と口をそろえて言うが、本当の地獄とは、死んだ後のことではなく、生きている人間社会にこそ潜んでいるのかもしれない。

地獄と聞いて思い出したが、職場で韓国人の社長たちから聞く話を聞いて思ったことだ。韓国の大統領選挙後に自殺をした労働者が後を絶たないという。私はそれを見て理解ができなかった。もちろん、精神的苦痛、絶望感、言い表せない悔しさ、何とも言えない苦しみ、そういったこともあるだろう。しかし、生きることでなく、自殺を選択することしか生み出せない個人も問題はあるが、そのように向かうしかない社会的背景、誤った価値観、文化形成が社会的雰囲気、また個人の価値観に入ってきてはいないだろうか。それは社会的自殺、誤った価値観による文化的自殺という表現をするメディアの単語を見た。

韓国社会、日本社会も、たくさんの他の国よりも豊かな経済社会を持っているが、人が精神的に自殺に向かってしまう結果を見る自殺社会構造も持ってしまっている。精神的貧困、精神的破壊、これは私達が見ようとしてい目をふさいでいる社会的地獄の絵かもしれないと思った。戦時中の人が人を殺していくこと、他社を支配することによる地獄絵から私達は平和な社会での社会的暴力が進んでしまっているのだろうか。そんな先進国にはなりたくないと思うのだ。

私は、20代の頃、しばらく経済的成功ばかりを追ってきた。そこに価値観の照準を合わせてきた、成功もあれば失敗もあった。そして失敗の方が後に悪い味を残していった。しばらく経済的なことから照準を下ろそうとした。その時がちょうど入社の時だった。自身の中にある習慣的価値観からの矛盾がありながら、今は矛盾を内包しているのではなく、その矛盾は飲み込まれ、消化され、自分の中での言葉、意味を見出している。

 

運命があったとして、その運命が不幸なら変えたいという願望があり、素敵な運命なら導かれたいと思うだろう。

 

56ページ目にさしかかった時、私もこの本に出会った運命を感じてしまう。

著者はあの「カモメのジョナサン」を翻訳した人なのだ。あの本をただの物語として読むこともできれば教訓のある本として見ることもできた。あの人の翻訳があったから、今の私の考えや行動がどこかにつながっていると思うとき、それは人の織り成す「宿業」であり、出会う運命へとつながるのかもしれない。

 

運命でものごとを考えたくはないが、運命を感じることはこれからもたくさんあってほしい。

 

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