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マツダはなぜ、よみがえったのか? 静岡P84

投稿日:2012/5/5

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マツダはなぜ、よみがえったのか?

著:宮本喜一

Center:蒔田高徳

 最近我が家の車を買い換えた。選んだのは、HONDAのFITハイブリッドの中古車だったが、TOYOTA、HONDA、NISSAN、MAZDA、SUZUKI、DAIHATSU これら全て試乗しに行った。どの会社の車も魅力的だった。20代の頃、友達がトヨタのハリアーを乗っていて、それがとてもかっこよかった。私はセダンよりも車高のある車が好きで、SUV車がやはりかっこよく見える。まぁ結局は燃費など経済的な事を考慮し無理な買い物はしなかったのだが、SUVの中でも今一番魅力的なのはMAZDAのCX-5だ。

ディーゼル車でハイブリッドでも無いのに、燃費も他のメーカーの車に比べても一番良い。販売員に説明されたが、人気でなんと納車は半年待ちだった。販売営業員に聞くとそれでも予約は黙ってても入ると言う。試乗したが、本当に魅力的だった。私に経済力があれば、、、これだったが。

TOYOTA、HONDA、NISSANに比べてMAZDAに対して書かれた書籍の数は圧倒的に少ない。図書館でこの本を選んだ時は、「お、MAZDAもあるんだ?」と言った印象だった。

そんな存在感をあまり感じることができなかったMAZDAがどうやって変化していったのか?

 バブル経済の真っ只中で、MAZDAは販売店の多チャネル化、多数の車種増加を行い、バブル経済の崩壊から深刻な経営状況に陥った。そして、米国フォードの実質的傘下に入る形となった。実は本を読むまでは、MAZDAがフォード社の傘下に入っていた事すら知らなかった。現在では経営危機に陥ったフォードのMAZDAへの出資比率は下がっているが、それでも両社の戦略的提携関係は継続している。

 一度はどん底に落ち込み、フォードに資本支援を仰ぎ、経営の実権を明け渡し、新車開発すらままならなかったMAZDAが、なぜ鮮やかに復活できたのだろうか?この問いに答えるのがこの本の命題だ。

 

 結論から言えば、MAZDAの復活の理由は、消費者向けのブランド戦略とグループ無いでの生き残りの戦略、この二つの戦略が功を奏したからだ。MAZDAの「オンリーワンの技術力」、「物作りの力」しかし、それだけを守りきれば市場で生き残れるわけではない。それは企業の思い込みに過ぎないと著者は否定する。いくら「物作りの力」があろうとも、その力の価値を市場に伝え、浸透させ、消費者が注目し、実際に買ってもらい、さらに固定的なファンがつくことがない限り、ビジネスにならない。即ちブランド戦略は完遂しない。他社には真似できないオンリーワンの物作りの力を市場にPRし、イメージづくりをし、ビジネスが成立して初めて、製造業のブランド戦略が機能する。それが出来ない企業は多く、MAZDAも例外ではなかった。

 

MAZDAはどのようにブランド戦略を立て直したのか?

重要な役割を果たしたのは、MAZDAの経営を掌握したフォード出身の経営陣だ。彼らはMAZDAに厳しい要求を出し続けた。ムダを無くし、販売チャネルを整理し、商品を絞り込んだ。軽自動車の自社開発生産を中止させ、高級車も廃止し、利益の出ないタクシー使用車など、多数のモデルもやめた。フォードは米国流の合理的な経営でMAZDAの中に溜まった膿を出していった。

一方、MAZDAを支えてきた現場の社員たちも、フォードから送り込まれた経営陣が出す厳しい要求に対して知恵を絞り、自分たちの強みを最大限に生かそうと新車開発に没頭した。どうにかして新しいMAZDAを象徴する、比類ない、そしてもちろん売れる車を。

MAZDAの復活は、同社の現場の技術力とフォードの経営力が真剣にぶつかりあい、その結果として発揮された相乗効果の産物である。

国内メーカー5番手の「平凡な企業」だったMAZDAが外資系の傘下に入り、存在意義を失いかけた後、自社のブランドの再構築を行い、外資グループの中での地位も向上していく。この再生物語は、多くの企業、苦闘する企業にとって非常に参考になる。

 

RX-8の開発

この本を読んでみると、RX-8と言う車が本当にかっこよく、またMAZDAの魂が詰まった車だということがよく分かる。

車好きな人意外にはあまり知られていないかもしれないが、MAZDAは高機能のスポーツカーの技術力があり、「ロードスター」と言うモデルのスポーツカーはスポーツカーの販売台数でギネス記録を持っている。そしてそれは今も記録更新中だ。また、現在、ロータリーエンジンを搭載した自動車を生産しているメーカーは世界でマツダのみとなっている。MAZDAは世界から見てもオンリーワンを持っている会社だ。

 MAZDAの現場は、「理想のスポーツカー」を思い描き、フォードの経営陣は「理想の経営」を思い描いた。一歩間違えれば、空中分解する。経営陣に反目する現場、現場の力を活用しない経営陣。ところが、このぶつかり合いの結果、ブレークスルーが起きた。すなわち「理想の経営を体現する理想のスポーツカーが誕生」したのだ。

その車こそがRX-8である。スポーツカーはその走りが速くなければいけない。よって、重量と言う課題がいつもつきまとう。そして大概のスポーツカーは二人乗りだ。このRX-8は4人乗りでしかも4ドアなだ。フォード経営陣は新製品は4ドアと言う課題を絶対に譲らなかった。現場の技術者達も、4ドアそして重量と言う課題には無理があるとその主張を飲むことは出来なかった。現場と経営は互いに無理に無理を重ねる・・・そんなせめぎ合いだ。しかし、その中で彼らの執念と知恵の結晶が、新しい価値を生み出したのだ。時に正しいのは現場ではなく、無理難題を押し付ける社長が正しいこともある。無理を無理とせず、どのようにして、この今ある矛盾点、課題点を克服していくかを必死の努力を傾ける現場の力、人の可能性というものに本を読みながら感動するのである。

通常スポーツカーと言うものは、特定の車を走らせる事が好きな人だけが乗る車と言う印象であるが、この車はその概念を打ち破る新しい顧客を創造することにも成功した。スポーツカーとしての購入者だけでなく、子供を乗せたファミリーカーとしても人気が出たのである。

私はHONDAのFITハイブリッドを中古で購入して乗って見て思うのだが、燃費よくとても悪くない車なのだが、加速、走った時の爽快感は、正直あまりない。わくわくすることはない。ハイブリッドカーで重たいし、本を読んでいるとRX-8乗ってみたいなと思うのである。MAZDAのCMでZoom Zoom と言う言葉は子供が車のおもちゃを走らせるとき、「ビューン」と言う「走ることへのわくわく」を表現した車だ。ZoomZoomなMAZDA車が気になる。

 

 MAZDAの再生に向けた道

2章 とにかく火を消せ

いくら技術力や、すぐれた人材がいても、MAZDAは経営の失敗から、まずは火を消すことが必要だった。この章を見ていると、おそらく現場には冷たい空気が漂い、新しい情熱の火を灯す事が本当に難しいだろうという現場の雰囲気が想像ができる。しかし、フォード経営陣はまず、とにかくMAZDAの火を消していった。それは地獄のような時期であっただろう。

 

3章MAZDAブランドを再構築せよ

 経営体質の改善という一本目のトンネルを抜けたMAZDAが次にくぐらねばならないトンエルがこれだ。

 フォードグループのブランド戦略会議

これは、とても興味深い会議だった。私たちの現場でもこのようなことをしたからだ。MAZDAの事例は知らないし、違う本を読んでやってみたことではあったが、大きな企業でも同じような事をしているのを改めて見ると、私たちのやったことはとても重要なことだったのだと再確認できる。

 

 フォードの考える自動車メーカーのブランド戦略

①    ブランドとは、単なるトレードマークではなく、世界中の市場の顧客に答える企業施策であり、そして同時に最も重要な経営戦略である。

②    ブランド戦略すべての中核に据えるべきテーマは(企業の)ブランドDNAである。ブランドDNAが宿るのは、「(その企業の)個性」と「商品」の二点についてである。

③    ブランド戦略の遂行は、商品領域とコミュニケーション領域の両方でそれぞれのフィロソフィ(哲学)を明確にした上で実行されなければならない。

 

私の現場、デザイン室もブレインセンターと言うネーミングに最近変わろうという会議をした。私たち自身のブランドは何なのかと言うことを皆で話し合ったのだ。フォードの考えるブランド戦略を例にしても私たちの話した会議ととても似ていることが分かる。

 

MAZDAの「個性」のDNA

「センスのよい 」Stylish→確信に満ち、個性的で存在感がある。

「創意に富む」Insightful→ニーズや価値への深い洞察に基づき、新しいものを創造する。

「はつらつとした」Spirited→情熱的で、表現豊かで、若々しい。前向きで生活を楽しんでいる。

 この3つの頭文字を取って「SIS」という車内キャッチフレーズが出来上がった。これ以降、「SIS」はMAZDAのエンジニア達の合言葉としてグループ内で認知され、現在にいたるまで、自社製品に盛り込むべきブランドイメージの基本となった。

 

MAZDAの「商品」のDNA

「際立つデザイン」Distinctive Design→個性的で優れたデザインがされている

「抜群の機能性」Exceptional Functionality →居住性など実用性が実現している。

「反応の優れたハンドリングと性能」Responsive Handling and performance

→エンジンから足まわりまで運転性能のバランスと絶対値がすぐれている。

 

MAZDAという会社の個性がSISという言葉に集約できること、そのうえでMAZDAが作らなければならない車の具体的なイメージが「完成に訴える合理的な車」「見たとき、運転したとき、使ったとき、あなたの感性に訴える」さらに「個性」「商品」に加えて、「価格」がMAZDAのブランドを再構築するうえで重要なポイントであり、どんな価格帯でどんな個性を持ったどんな内容の商品をつくるかを以上のブランド定義に従って、現場レベルで考えるようになった。

本の中では、たくさんの感動的なエピソードがあり、思わず涙をした箇所が何度かあった。

MAZDA今フォードのグループ傘下と言う言葉は似合わない。資本比率もフォードの経営難もあって、今では少なくなった。だからと言って両社の関係が悪いわけではなく、今でも良い関係だ。MAZDAは変化していく中で、その存在感をフォードグループの中でも発揮していった。フォードグループのエンジンのメインを担っているのはMAZDAだ。今ではwindowsで例えるなら、そのOSと表現されるほどだ。MAZDAはフォードから経営を習い、フォードはMAZDAから技術を学ぶようにもなった。両社は互いに相乗効果と経営にも技術にも妥協のないぶつかり合いをして、今に至るのだ。

 

私が見る最近のMAZDAは本当にすごいと思う。SKYACTIVEと言うエンジンもハイブリッドでなく、ガソリン車として燃費はℓ30Kmだ。他社のはハイブリッド技術なのに対してだ。開発技術者の魂を最近のMAZDAには感じるのだ。そして、デザインもとても目を惹くようになった。日本の車市場を見ていると車を消費者の目で見ても楽しいし、経営の目で見てもとても勉強になり、そこにはそれぞれの魂が感じられる。

 ひとつ厳しい目で言えば、私が訪問した販売ディーラーはちょっとその積極性が物足りなく感じた。値引きとかサービスとかそういうことではなく、熱意と言うか、結局のところ消費者が出会うのはディーラー販売店なのだから、そこでの教育はもっと熱があるといいなと思う。せっかく、良いものを扱っているのだから。私がMAZDAのディーラーだったらすぐにトップセールスになれる自信がある。少し言い過ぎか。

 でも、期待しているからこそ、本当に頑張ってほしいと思うのだ。

 

 

 

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