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ゴールは偶然の産物ではない 静岡P46

投稿日:2012/2/29

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ゴールは偶然の産物ではない

著者:Ferran Soriano

Center:蒔田高徳

 この本は、私が出会った本の中でもとても良い勉強になった本の中に入っている。F.Cバルセロナと聞けば、世界最高のプレーヤーと言われるリオネル・メッシが所属するチームであり、チームとしても芸術的、ファンタスティック、世界最高、最強のチームだと言われている。わたしたちを熱狂させてくれる、偉大なスポーツチームの一つだ。そのクラブチームが少し前までは経営破綻をしてもおかしくない状況だったというのは、現在の栄光の姿からは、あまり想像が出来ない姿であり、タイトルに込められたメッセージのように、ゴールは偶然によって生まれるものではなく、人間が導き出す、経営の判断と、その難しさの中での苦労の繰り返しの中での産物なのだと本を読んで学ぶ。

序章のタイトルは「運ではない」だ。どれだけ、人材を要したからと行って、今のバルセロナがあるわけではないのだ。目に見える論理、見えない論理があるのだ。

 

  • それぞれのフィールド どんなビジネスで戦っているのか

 業界を知る ジャングルを選ぶ

あなたが売ろうとする商品は何か?

 どんな立場であっても、この質問は定期的に深く考えてみる価値がある。スポーツの世界では難しいのは頂点にたどり着くことではなく、そこに留まることだ。とよく言われるが、トップの地位を維持できるかどうかは、努力や犠牲を払い続けられるか否かにかかっている。企業の場合は、顧客が求めるものを十分に理解した上で、変化し続ける市場環境や顧客の要求に対応し続ける努力をすることが必要だ。顧客がどんな商品を購入するかということではなく、顧客の欲求を満たすための究極的なニーズを理解することが大事だ。

 

 どんな市場でも、いつかは現在の構造を揺るがすような混乱に見舞われるものだと著者は言う。それは技術の進歩によることが多いが、文化的・社会的な変化や法律の改正などによることもある。その混乱は、多くの場合、極めて厄介な問題を突きつけ、変化に順応して生き残ることができる企業と、そうできずに屈服する企業との分かれ目となる。私たちの市場も、変化と混乱が、技術の進歩からあると言っても過言ではないだろう。それが一時的には、アナログだったカメラから、今はデジタルに移行したように、以前あった構造に混乱を与えながら、順応し変化、進化していくものと、変わらないままでいる場合とがある。その中で生き残っていくということは、サッカーにおいてもどこの業界、写真の業界においても同じことだ。たくさんあったプリント屋さんが今はだいぶ少なくなった

し、性能の良いカメラは日進月歩で発売され、個人が扱っていくスペックも毎年上がっている。プロがプロとして、市場の中で生きていく上で、変化とさらなる飛躍、進化をなしていくことは生き残る上でも宿命だ。

 ケーキの形とサイズ

自分が売りたいと思う商品と顧客の欲求を満たすニーズを正しく定義したら、次の問題はケーキの大きさ、つまり狙いを定めた市場のサイズはどれくらいかということを把握する必要がある。市場の大きさと現行のビジネスモデル、そしてそれらの進化の形態と成長度合いを予測しなければならない。

 サッカー界においては、二つに二分されていった。圧倒的なブランド力を持って世界に向けて娯楽を提供するクラブと、地域の市場に限定したクラブとに二分されるという結論に達していった。前者は、成長をつづけて優秀な選手と契約を交わし、タイトルを手にしてさらなる資金を呼び込むことになるので、また優秀な選手を獲得し勝ち続けることができる。一方で後者は勝利する機会が乏しく、小さな市場での戦いを余儀なくされる。しかし、それが自発的な選択ならば、地域の市場の留まることを否定的に捉える必要はない。

 

価値連鎖か一人勝ちか

市場のサイズとビジネスモデルを知ることと同様に、そこで生み出されている付加価値の流れ(価値連鎖)を知ることは非常に重要である。簡単な例で言うと、ある家具店で、椅子が1万円で販売されている場合、その内訳 販売員の取り分、工場から店までの運搬コスト、製造者の利益、機械の減価償却費、資材のコストなど―を分析し、自分が参考にしようとするフィールドが価値連鎖のどこに位置するのかを理解しなければならない。私のフィールドは価値連鎖のどこにいるか?

 

競争相手を知る

自分が勝負しようとするフィールドを分析して理解を深めたら、次のステップは主な競争相手に目を向ける。先頭を行くのは誰か、最も優れているのは誰か、劣っているのは誰か、彼らから何を学べるのかといった点を見極める必要がある。

 

経費と収益の適切な比率

3つの経費

クラブの損益計算書で収益と対をなすのは、クラブの経費だ。経費は、人権費、償却費、運営費の3つに大別できる。サッカー界は、一般の企業などの人権費とは違っている。一般的に、効率的に運営されている事業の場合、人件費は収益のおよそ50%ほどと言われているそうだが、スポーツ界では人件費が収益の80%となってしまうことさえある。スター選手の獲得、スポーツ界に起きた放映権、グローバル化と化し市場が大きくなったことからのバブル的な部分もあるが、人件費が収益の80%の経費を使うというのは、経営としてとても苦しい状況になるのが想像がつく。

 

 

FCバルセロナの戦略

2003年の夏にFCバルセロナの新経営陣として選出された著者、そして経営陣はサッカー界のビジネスについて深く研究し、過去数年にわたりクラブが抱えてきた問題を解決するためにはどのような戦略を取るべきかを考え抜いた。当時のチームは成績の面でも財政的な面でも深刻な状況に陥ており、自分たちの目指すゴールに行き着くのは不可能であるようにみえた。そのとき、バルセロナの経営陣が定義したのは、FCバルセロナは「クラブ以上の存在」であると位置づけた。この定義が非常に重要だったということを本の中でも非常に強く感じる。というのは、FCバルセロナは社会的、民族的な重要性を持ち合わせていた。規模の違いはあれど、この戦略は経済的、ビジネス的な基準だけをベースにしているのではなく、サッカーというスポーツがもたらす感情的な側面や、FCバルセロナとカタルーニャ地方を結びつける民族性という要素が極めて重要だった。実際多くのブランドや製品において、人々の感情や帰属意識に訴えかける必要性が高まっている。日本人が一瞬頭の中でこれはMade in  Jaapnというものでいろいろなことを考えれると思うが、ここには安心感意外にも、一つの帰属意識もあると思う。人々の感情をブランドに反映させるのに、サッカーのクラブほど適したものはない。FCバルセロナはクラブ以上の存在として生まれ変わるべく歩み出す。

 

経営縮小か、大胆路線か

 様々な過去の要因からFCバルセロナは破綻寸前の状況にあり、世界の主要クラブが乗り込んだ「グローバル化」という列車に乗り遅れる可能性があった。

クラブの状況を徹底的に分析したと、経営陣は二つの戦略案を立てて検討した。

  • 経営縮小:即座に経費を削減し、数年間は緊縮財政を続ける。財政状況が改善するまでは選手への投資を控え、なんとかやりくり
  • 大胆な改革:経費の無駄を削減し、債務を減らす一方で、チームへの投資は即刻始める。トップに返り咲けるような魅力的なチーム作りをし、内部投資をさらに行えるよう収益をあげる

経営陣は2.の大胆な改革を選択した。もちろんこの選択肢にリスクもあった。クラブの財政状況は逼迫していたため、最初の投資での失敗は絶対に許されなかった。経営陣が選択した戦略が危険性の高いものに見えたのは事実だった。良い製品がないのに成功を収める会社というのはありえない。経営陣は良い製品、チャンピオン急の製品を作るという賭けに出た。そして、ロナウジーニョの獲得に成功した。契約金は非常に高額で交渉が成立するまでに苦労があったが、ロナウジーニョはバルセロナの顔となり、十分にそれに見合うだけの効果があった。

 私が何気なく、サッカーのハイライトの楽しい部分だけを見ているその裏で、華々しい裏ではとても、緻密で戦略的で、苦悩に満ちた分析と経営がなされていることを知る。華々しいバルセロナのゴールは偶然の産物ではなく、経営の努力の賜物だと言いたい著者の気持ちは本からひしひしと伝わってくる。本の厚み、内容のデータの量、エピソードはもはや論文だ。これを公開してくれているのは、経営の財産だ。

 

イノベーション

イノベーションを定義する

イノベーションは、まだ認識されていない、あるいは満たされていない消費者のニーズを満たすアイデアの適用からなる。なぜならこれは、実際の解決方法に関する問題、実行化するアイデアのことであって、理論や芸術的創造性の話をしているのではないからだ。

回答は、消費者に焦点をおいている。なぜなら、消費者が最終的な受け手だからだ。

消費者にはニーズがある、しかし、それをまだ表現できていない。私たちは先にそれを見つけ出さなければならない。そこでリーダーシップを取ることで、ビジネスのチャンスが生まれるのである。

 イノベーションには、何かの発明ではなくて、すでに発明された可能性のあるものを再発見することも含まれている。イノベーションは創造性以上のものであり、新しい物の見方で状況を解釈することである。イノベーションとは、新製品を作ることではなく、新しい消費者ニーズを見つけ、それを満たすことだ。

 イノベーションを生む人とは、いちばん最初に何かをする人のことではなく、最初に消費者に到達することができて、しかもその商品が最高のソリューションだと消費者を説得できる先駆者のことである。そこで誰もがApple社のスティーブ・ジョブズを思い浮かべるだろう。Ipodは、まさにその実例だ。Ipodが発売されたとき、市場には既に多くのMP3プレイヤーが出回っていた。しかしipodほど「音楽を購入する体験」まで工夫された商品はなかった。それはiphone やipadでも同じだ。アプリの開発者の市場を解放し、自分の携帯をソフトをインストールして、カスタマイズできるようになり、この分野でのリーダーとなり、業界に多大な影響を与え続けている。

 

ユーザーを観察し意表を突く

 イノベーションのヒントは、顧客に「何が欲しいか」と尋ねても得る事はできない。それよりも顧客の購買活動や生活スタイルを観察し、顧客の身になって感じ、体験することが大切だ。いったん顧客の視点から物が見られるようになれば、イノベーションのヒントを得ることができるだろう。つまり、まだ誰も見つけていない顧客のニーズ、あるいは見つかってはいるが形になっていないニーズに対する解決の糸口が見つかるはずだ。まずは顧客の立場に身を置き、彼らと気さくに語り合い、言葉のニュアンスや彼らが深く考えずに口にした言葉の意味、予想外の発言などに注意を払い、その背後にある意識やニーズを考えてみることだ。

 

 

創造―すぐに評価・判断することからは生まれない

創造的なプロセスにおいて、「評価・判断」の概念を「発展」の概念に変える必要がある。これは、人間の通常のロジックを変えることを意味している。人は普通、反射的に物事を考える。もし、誰かが何かを提案したり、意見を出したりすれば、私たちはその提案や意見が正しいか間違っているか、適切か不適切か、タイミングが良いか悪いかなどをじっくり検討することはなく、即座に評価を下す傾向がある。それでは創造的なプロセスを進めたり、チームの創造性を高めたりすることはできない。逆に、斬新なアイデアに導いてくれるような進歩的な考えを葬ることになる。これらは、会議をしてみるとよくある光景だ。

意見に対して反射的に即座に答えがくるが、あまり発展がない意見の否定、否定の為の否定となって、一件反対意見は優位性があるように見えて、結果何もしていないのと変わりがない現象だ。私たちはいつでもその状況に陥りやすい。

 したがって、「評価・判断」の概念は「発展」に置き換えなければならない。発展的に対応すれば、何かアイデアが出されたときに、直ちに非難することはなくなくる。評価する代わりに、そのアイデアを足がかりとして、別のアイデアから別のアイデアへと、どんどん新しい選択肢を増やし続けるのである。このようにしてたくさんのアイデアを生み出したあとで初めて評価をし、優先順位をつけるのだ。

 私たちの会社の会議でも、もっと創造的プロセスを体験する必要がある。

 

バルセロナのユニホームを見て欲しい。チームのユニフォームに載せる広告についての話し合いをしたとき、最初はいろいろな案が出たが、結局どれも実現しなかった。バルセロナのユニフォームに載せる広告費として経営陣が妥当だと思う額を支払うスポンサーが見つからなかったこともあるそうだが、そんなとき、スタッフが「スポンサーに支払ってもらうのではなく、我々が支払うってのはどうだい?」と提案した。もし、その瞬間、発展的な対応をするのではなく評価をくだしていれば、その案は即却下されただろう。しかし、彼らはその提案を熟慮し、最終的にユニセフと契約を結んだ。自分たちのユニフォームの全面を、世界の人々の為にというメッセージを込めて、ユニセフ側に自分たちが支払っていくかたちを取ったのだ。それは「クラブ以上の存在になる」という理念とも一致する決定だと感じる。

 

FCバルセロナはソシオによって運営されている

FCバルセロナには、オーナー企業も、経営者も存在ない。ソシオと呼ばれる人たちによって運営されるスポーツクラブだ。 ソシオには、誰でもなることが可能だ。日本に住む貴方も、ソシオになれば、4年に一度行われるバルサの会長選挙へ投票する権利を得られ、 年に一度開催される総会に参加できる可能性も得られる。もちろん、いつでもクラブに対して意見できるし、より良いクラブにしていくための手助けを行うことも可能だ。 ソシオになることで、FCバルセロナをより身近に感じるようになれる。バルセロナで試合を観戦したい場合には、チケットの手配を受けることが出来るし、 クラブが日本へ遠征を行う際にも、ソシオ向けの特典などを用意している。

この点についても非常に興味深い運営方法だと感じる。もちろん経営陣がおり、政策と方向付け、目標の設定はされている。しかし、多くのソシオと呼ばれる会員で運営がなされているのだ。「クラブ以上の存在」という定義のように、世界中のファンとソシオで運営されているバルセロナの経営努力は、私たちの経営にも多くのヒントと模範となる内容がたくさんある。本の中では、スポーツ選手との難しい金額面での交渉の場、その実際の交渉に望む準備の内容、言葉、駆け引きも事細かに書かれている。また、チームを運営する上でのリーダーシップ、チーム作り、監督、数多くの深い内容が詰め込まれている。

「ゴールは偶然の産物ではない」というタイトルの通りの思いがこの本の中に、生きた経験として、財産として詰まっている。

 

 

 

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