「写真は引き算だ」という言葉をよく耳にします。表現したいものを最大限引き出すため、必要のないものを極力フレーム内から排除するという行為を、算術に例えてそう表しているのでしょう。 ひき算の方法は様々です、フレーミングによって完全に切り取ったり、光によって飛ばしたり潰したり、あるいは物理的にどかしてしまうという方法もあります。 撮影中に少女がとった仕草・・・それによって、手前に置かれたカバンと被っている帽子で彼女の姿はこちらからは殆ど隠れてしまいました。一瞬の戸惑い(ポーズを改めて仕切り直すか…という迷い)の後、ほぼ無意識的にレンズを望遠側に回しながら、３歩ほど被写体に歩み寄りました。幸い、予めセッティングした光によって、明暗のコントラストが強く出され、そのイメージ作りに大きく貢献しています。 ---恵比寿店の玄関はこうしたコントラストを強調した光をつくるのに適しています。 私は個人的にカラヴァッジョの絵画がとても好きなのですが、彼の描くような、明暗比が大きく、暗闇の中に人物が浮き上がるような光を、この場所では再現することができます。--- また、顔の一部分しか見えてない状態がむしろその存在感を強めています。 主題は目。目に意味合いを持たせるため、視線の向いている左側に若干の空間を設けました。顔前に置かれた左手もこの仕草の重要な要素です。あとはバランスを整えシャッターを切る。必要のないものを排除し、主題をはっきりさせる『引き算』。彼女が偶然撮った仕草から、その言葉の意味合いを実感できた瞬間です。