フォトジェニックアーカイブPhotogenic Archive

近くで見るか、遠くでみるか。

投稿日:2018/5/13

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Shonan
Photo:gomei
Codi:Nozomi Kawashima

 

学生時代に見た岩井俊二監督の打ち上げ花火下から見るか、横からみるかという映画を思い出しました。
劇中では登場人物の小学生たちは「花火って横から見たら丸いと思う?平べったいと思う?」という小学生によくありそうな議論から、実際に確かめてみようとなる話だったと思います。
意外にこのようなシンプルな疑問への回答に困ってしまう大人は多いのではないかと思います。大体のことは気にもなっていないことでもありますし、だからこそ実体験を通した知識が備わっていないので、普遍的な回答をすることができないのではないでしょうか。
実はよく考えてみるとこのような疑問は誰しもが抱いたことがあるでしょうし、現在も実は抱いていることも多いのではないでしょうか。

私は「とにかく猪木と馬場が戦っていたらどちらが強かったと思う?」です。
このような漠然とした問題定義こそが、行動の根源となりえることが日常的に非常に多く、では確かめてみよう。やってみたらわかるさ。そのように物事はなされていく過程で、一つ一つの仮説が立てられます。
もしもの例えですが、猪木対馬場が戦い、猪木が勝てば、猪木のほうが強かったという仮説が経ちますが、その後2戦してどちらも馬場が勝てば、2勝1敗で馬場が強かったとなりますね。1戦終わった時と3戦終わった時では仮説が変化しています。このように仮説とはあくまで仮なので、常に変化をしていくものです。
それを知りたいという欲は好きなことをしていれば当たり前に抱く感情であり、行動の根源だと考えています。
これらの考えを踏まえて、この写真のテーマはこのようにしました。
【彼の特殊性は近くで見たほうが伝わるのか?遠くで見たほうが伝わるのか?】
 
あくまで特殊性の話ですので、人が変われば方法も変わるものです。
私の観点から見た話しになりますので、あしからず。
 
まず近くで撮るクローズアップと、遠くで撮る引き写真の要素を整理したいと思います。
●クローズアップ
主体となる要素の存在感を最大限に撮影ができる。
ポートレートの場合、被写体の一部分のピンポイントでフォーカスすることができる
 
●引き写真
多くの要素が映るため情景を残すことができる
体全体が入るので、被写体の動きが分かりやすい
簡単に挙げてみるといくつかの違いが出てきます。
本当に簡単に書き出しただけですので、詳しく知りたい方は参考書で各自研究してください。
個人的にはクローズアップの写真は大好きで、被写体の良い特徴を大きく存在感ある形で残せることは大変楽しいのですが、今回の彼の特殊性を生かすことに選択したのは引き写真です。
その選択を決定するために、撮影中に得られるの情報はとても大切で、きっとこうだからこうしてみようと仮説の根拠になります。
 

それでは彼に対してはどちらが適切なのかを考える上で必要な彼の事を書いてきます。
5歳七五三撮影で来店いただきました。
大好きなおもちゃを兄弟そろって沢山持参してきたことが、今回の撮影への期待値を伺えます。
兄はスターウォーズのフィギュアを3体、弟はトイストーリーのフィギュアを2体ほど。どのフィギュアも片手で収まりきら居ないほどの大きさなので、子供からしたら本当にお気に入りの宝物と言うものでしょうか、私自身も幼少期は大きなおもちゃは中々手にすることができずに、大切に何年も遊んでいた様な覚えがあります。
単純に好きという気持ちと、誰かに見せたい気持ちなどポジティブな感情を色々と含んでいた事でしょう。
ママに聞いてみます。
「本当にはまっているんですね」
「もうずっとそうなんです」
たったこれだけの会話にすぎませんが、この会話から読み取れる彼の日常は、きっと好きな物には一直線の直球タイプの少年なのでしょう。好きな事にはどっぷりと。彼の印象を何となく知りながら撮影に向かいます。
 
さて撮影ではどのようなものか。
恐ろしいほどに緊張をしていました。簡単な質問にも答えられないほどに、顔からも緊張!という文字が書いてあるのかの様に緊張しつくしてしまっており、まずはこれを解いてあげる事が必要ですが、一度固まってしまた心と体を解いていく事は至難の業です。
ふざけたことを言ったりやったり、兄に協力してもらい一緒に悪ふざけをしてみたり10も20も投げかけましたが、緩む口元を開かせることは出来ませんでした。
ただ撮影の指示に関しては頑張ってこなそうとしてくれている姿は健気で、やりたい事は他にあるが淡々と行ってくれていました。
延々とどっぷりの対義語は淡々となのかな?なんて思いながら、着物での撮影は終わっていきます。
次に大きなヒントになったのが、着物撮影後のカジュアルです。
着替えましたーとコーディネーターからの声を貰い撮影場所に行ってみると、これまで袋の中で保管がしてあったフィギュアたちが出され、すでにスタンバイされています。
その時間を目にはしていませんが、きっと我慢の時間は終わった!これかやっとあそべるぞ!そんな気持ちと時間が流れていた気がします。
私も心の中で「では遊ぼうか」とつぶやきながら、撮影を行って行きます。
しかしいざカメラを向けると先ほどの緊張が読みがってくるのがすぐにわかりました。撮影で遊ぶことと公園で遊ぶことは異なります。公園の様に自分が思った通りに走り回るような事はできず、撮影では撮影エリアやポーズと言う制限がある為、好き勝手には遊べません。その制限された環境と条件を逆手に取る様に遊びを提案していかないとすぐに子供は飽きてしまいます。
 
そういう時に強いのは兄の存在です。まずは兄とふざけながら「撮影にならない!」様な雰囲気を作りながらいつもの3割増しのオーバーリアクションをしていく事で、彼が抱く撮影中にやってはいけない事の幅を緩和させていきます。するとすぐに反応がでて、兄と同様にふざけてみたり、あえて指示と異なるだらしないポーズを取ってみたりと、徐々に素直な笑顔がほころび始めます。
ここでようやく好奇心と行動をつなげるための準備運動が完了しました。
 
写真はまず大前提としてファインダー内の記録という大きな要素がありますので、好奇心があっても行動に表れなければ、なかなか写しだすことは出来ません。
もっと言うと子供の素直さの一部に、というものは好奇心と行動の一致が挙げられます。
この一致した状態を作り出すことができないと、自然な写真が撮れない可能性が大いにあると考えます。
 
ここでやっとこの写真のテーマ「好奇心と行動の一致」が洗いだされました。
そして彼から読み取る事の出来たポイントを羅列してみます。
・おもちゃなどの物に興味を抱く傾向が高い
・遊びたい、自由に動きたい欲がある
・同時に真面目にやらなくてはという観念もある
このくらいの要素を挙げることができました。
ではこれらを踏まえたうえで、どのようにするか考えてみると、湘南店にはベストともいえる撮影エリアがありました。
大きなスクールバスです。
まず日本ではあまり見かける事のないバス。
運転席や座席を自由に乗り回る事の出来る環境。
この2つの要素が、おそらく彼の好奇心を持った行動を誘発する事ができるだろうと、最終シーンで使用する事に決めました。
きっと自分の思った事を行うだろうと、そして思わせてあげる事ができるだろうと。
 
物理的な距離が近いとやはりカメラの意識が強くなってしまうので、まずはある程度距離を保つことが優先事項となりました。
ここでバスの中を一度観察します。
光は窓を通して間接光が緩やかに入り込んでいました。
色は思っていたよりも多く、クリーム色の天井、椅子の茶色、バーや窓枠の銀色、空調パーツの黒、私の手前にある椅子は黒潰れするだろう。
同系色ながら4色~5色程度はパッと目に入りましたので、今回は彼の動きに注目したいので、モノクロ設定にて撮影をする事としました。
すると輝度がより重要になってきますので、ここで彼に行う声掛けも同時に決定がされます。
次に画角です。
この時には私の選択肢は2つありました。一つは望遠レンズで彼の嬉々としている表情をメインで撮影をする事です。ある程度楽しそうな表情をしていたり、真剣な表情をする想像はついたのですが、なんでそうなったのか?という説明が写真から見て取る事が困難になる可能性が非常に高いと考えます。物理的距離を遠く保つことで、ズームを使用します。ズーム効果によって写真に写る事が無くなったバスの要素によって、ここはどこ?なんでこんな表情?という説明がつかなくなってしまいます。もちろん想像力を掻き立てるという効果はあるかもしれませんが、今回のテーマには適切ではないと考えたので、標準レンズ広角効果を使用して撮影をする事にしました。
すると写真に写る要素は多くなりますので、画角の整理が必要になります。ポイントはバスである事ですので、バス車内のど真ん中にカメラ位置を設定し、天井にある2つの荷物置きをある程度対象に設置する事で、アシンメトリーな内装を整理つける事にしました。
整理された状態に一つだけ彼という整理ついていない行動をしてくれる姿を映すことで、より「動き」を強く捉える事が出来ると考えたからです。
 
カメラの設定はある程度決まりましたので、最後にどのように撮ったかを記していきます。基本的に難しい事は一切しませんし、シンプルな事の方が相手に伝わります。
彼に座席にいてもらい「外になにが見える?」と一言声を変えます。必然として彼は窓から外を覗きます。
弱い光の条件でしたので、しっかりと光源に顔を向けてもらわないと、どす黒く被写体が落ち込んでしまうので、そのように声を変えてみる事にしました。
シャッターチャンスはそう多くありませんので、声を変えて振り向いた瞬間に合わせてシャッターを切りました。
 
最後に冒頭で挙げていた【彼の特殊性は近くで見たほうが伝わるのか?遠くで見たほうが伝わるのか?】に戻ります。
今回の条件内では、遠くから撮影した方が伝わったというのが適切かと思います。極論はわかりませんので、この写真を見てくれた方々に決めて頂けるといいと思います。
昔親に口うるさく言われていたことを真に受ける事が出来なくて反抗していたことも、偉人の自伝などに同じことが書かれていて、スッと自分に入ってくる経験がありました。
遠くの方が良くつたわるという事ですね。
クローズアップの写真が好きな私で、一番特徴をとらえられるのがクローズアップかな?なんて思っていたりもしますが、無作為に寄るだけではなく、例と同様に遠くから捉えてみたほうがスッと入ってくる気づきがあるなと勉強になりました。
そんな一枚が古巣の湘南店が気づかせてくれました。

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